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第5話

 あの試写会が行われた次の日、一磨の突然の退席がネットニュースをしばらく賑わせていた。退席の理由は、『行方不明だった身内が観客席にいたことによる動揺』ということで処理されていた。映像には一磨を追いかける僕の後姿が映っていて、僕は完全に『一磨の行方不明の身内』という立ち位置になっていた。運よく顔バレはしていないから良かったけど、一磨の咄嗟の嘘とはいえ、まさかこんなことになるとはと、僕は大学の講義室で深い溜息を零した。  結局僕はあの後すぐ、試写会の会場からいそいそと立ち去り、山田さんには会わずに帰った。すぐ連絡をしなければと思ったが、自分でも申し訳ないという気持ちが足枷となり、スマホ上の指が動かなかった。  でも、自宅に着くとすぐ山田さんからメールが来て、僕に今日のことを聞いてきた。だから僕はすべてを正直に話した。行方不明の身内など山田さんには通用しないだろうし。山田さんは僕の話を聞いても、それでも僕と付き合いたいと言ってくれた。僕が一磨を諦めようとしたことは事実だからって。その気持ちはありがたかったけど、今度一磨と会う約束をしたと伝えたら、山田さんは『行かないでほしい』と僕に言った。  僕はそこで指が止まった。行かなかったらどうなるのか? 一磨が、あんな必死に僕に約束を強要したことが今まであっただろうか。それに、確認したいことがあるとも言っていた。  僕は一磨と会ったら、あの試写会での山田さんとのやりとりは本当に何でもなくて、自分は完全ノーマルだということを貫こうと思う。そして、今度こそ、自分の一磨への恋心を断ち切ることを、強く心に決める。  僕は、自分のその気持ちを山田さんに伝えると、山田さんは、『君が北村一磨に会いに行ったら、俺はもう二度と君に会えない気がする』と返してきた。正直意味が分からなかったが、僕は一言、『すみません。また連絡します』とだけ送って、山田さんとのメールを終わらせた。  一磨との約束は明後日だ。18時にいつものあの場所で会うことになっている。  恋心を断ち切るなんて本当にできるのかな……。  一磨とプライベートで会うのは4か月半ぶりだ。僕はその不安を断ち切るように講義室の机から勢いを付けて立ち上がると、一磨のドラマを見るために、急いで家に帰った。

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