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第8話
どんな質問をしようか。
僕は休憩時間の合間に、アンケート用紙を見つめながら考えを巡らせた。
一磨に聞きたいこと。
『どうして俳優になろうと思ったのですか?』僕が勧めたからだ。
『趣味は何ですか?』何もないから、僕の好きなラジオ局の公開収録に付き合っていた。
『好きな女性のタイプは?』そう言えば以前、僕をそのまま女の子にしたみたいな子って言っていたけど、多分冗談だと思う。
そう考えると、この質問の答えは全部僕絡みだ。全く一磨の主体性が見えてこない。一磨が何を大切に思い、何に情熱を持って生きているのか僕はふと知りたくなった。確かに演技の面白さに目覚め、自分なりに芸能界で生きていくことを受け入れてきたとは思うが、この間の電話では少し気になることを言っていた。
『湊に会えない今なんて、俺にとって全然大切じゃない』
僕はずっとあの言葉が気になっている。多分、芸能界で人気が出ることのハードさは当人しか知りえない。一磨は今、多忙さで情熱を失い、精神的に参っているかもしれない。
僕はアンケート用紙に質問を書いた。採用されるか分からないが、僕が今、一磨について一番知りたいことをぶつけてみようと考えて。
午前中の仕事体験が終わりお昼の時間になった。僕も良く聞いている、一磨が出演する人気ラジオ番組は13時から生放送される。旬なゲストを呼んで、そのゲストに質問を投げかけ、素の姿を上手に引き出すというとても面白い番組だ。
僕は自分の質問が採用されるか、複雑な気持ちで待った。採用されたら一磨とラジオで共演することになる。そうなればこの間の試写会のように一磨を混乱させることになるだろう。でも、どんな形でもいいから一磨に会いたいという気持ちの方が勝ってしまう。
会いたいよ。一磨。
僕は胸が苦しくなるのを感じながら、最初に学生たちが集まった会議室に向かった。会議室にはインターシップの担当者がいて、学生たちが席に着くなりいきなり話し始めた。
「では、北村一磨さんへの質問の採用者を発表しまーす。まず初めに、桜井湊さん!」
いきなり自分の名前を呼ばれて、僕は驚いて椅子から立ち上がった。慌てて辺りを見渡すと、他の学生からの羨望の眼差しを一気に受けているのが分かる。
「打ち合わせの時間はあまりありません。ぶっつけ本番に近いですが、番組プロデューサーによれば、それも臨場感があって良いとのことみたいです。じゃあ、選ばれた方はスタジオに入ってください」
担当者はそう言うと、僕を含めた3名の学生をスタジオに案内した。
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