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第6話
湊の家に着くまで、俺たちはキスをし続けた。もちろん俺たちは男だから、生理現象として自分たちの中心が反応しないわけはない。でも、その本能的な部分を理性的に抑えながら、俺たちはキスをし合っていた。
キスという行為だけでも、十分にお互いの愛情を伝え合えていることに、俺たちは素直に満たされた。でもそれは、車の中ということもあるし、マネージャーという第三者がいることも大きいが、それでも、自分たちはあの時、キスという行為に純粋に酔いしれ、お互いに深く愛し合えていることに、胸が張り裂けそうなほど歓喜していた。
俺だけじゃないよね? 湊もだよね?
俺は急にそんな不安に捕らわれるけど、帰り際の湊の顔は、いつもの凛とした湊で、俺はその顔を深く自分に刻み込んだのは言うまでもない。そうじゃなきゃ、俺は二か月後のカナダでの映画撮影に、前向きに望めそうもないから。
「一磨君。今日は君を見初めてくれたプロデューサーに○○ホテルのラウンジ会う予定だよ。どうしても早く君に会いたいって、わざわざ向こうから日本に来てくれたんだよ。一磨君に対する強い思い入れを感じるよね。だから、失礼のないように接してね。通訳は付けるから大丈夫だけど、挨拶ぐらいはちゃんと英語でお願いね」
マネージャーはまだ寝ぼけ眼の俺にそう言った。昨日はドラマの撮影で、深夜まで拘束されたというのに、今日は朝から、その噂の映画プロデューサーに会わなければならないなんて。
俺が過労で倒れたら、迷わず労災で訴えてやる……。
俺はその言葉を呪文のように心の中で唱えながら、マネージャーに渡された、高級そうなスーツに着替えた。
ホテルのラウンジは、平日の午前中でも割と込んでいた。俺はマネージャーと二人で先に席に着き、そのプロデューサーたちが来るのを待った。
コーヒーのおかわりを飲み終わっても、その噂のプロデューサーは現れなかった。時計を見ると、待ち合わせ時間を三十分も過ぎている。
俺は海外のお偉いさんなんて、所詮時間にルーズだと思っているから、別段苛立ちもしなかった。むしろこのままこの話がドタキャンになればいいのにと、またろくでもない考えが頭に擡げてしまう。
あーマジで、そうなんないかなあ……。
俺は心の中でそう願いながら、スマホを手に取った。どうせ遅れるならあと一時間ぐらい遅れてくれと俺は思いながら、この間湊と行った、公園の夜景の写真を見つめた。
俺の撮った写真だと、あの繊細な夜景の美しさを表現しきれていない。スクロールしながら何枚も確認するけど、気に入った写真が一枚も無いことに、俺ひどくは落胆してしまう。
湊はどうだろう? 上手く撮れてるかな。
俺はそのことに気づくと、早速湊に、『夜景の写真送って』とラインを送った。ラインは数分後に既読になり、何枚かの夜景の写真がポンポンと送られて来る。俺はそれをワクワクしながらタップして開くと、一枚だけとても良く写っている写真があった。俺はそれを速攻で保存すると、胸をときめかせながら、その写真を食い入るように見つめる。
「一磨君! いらしたよ。立って」
急にマネージャーに肘で腕を突かれ、俺はスマホをテーブルに置くと慌てて立ち上がった……。
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