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第3話
歓迎会の会場に着くと、僕と神野は必然的に隣同士に座らせられた。『そりゃそうだよな』と思いながら、僕は座布団に正座をする。
宴会が始まり、二人で新入社員からの挨拶をし、酒を飲み始めると、僕は神野が隣にいる緊張からか、酒を飲むピッチが自然と上がってしまっていることに気づく。
神野は下戸なのか、全く酒を飲んでいなかった。ずっとコーラとウーロン茶を交互に飲んでいる。僕はそんな神野の様子に気づくと、チャンスだと思い、他愛のない話で盛り上がろうと考えた。
「お酒苦手なの?」
僕は神野にそう問いかけた。神野はウーロン茶を飲もうとしている手を止めて、僕をじっと見つめた。
「……やっと話しかけてくれたね」
「え? い、いや、今まで、話しかけるタイミングなかなか無かったから」
僕は少し動揺しながらそう言った。神野の目力があり過ぎて、見つめられると少し怖く感じる。
「そうなの? 俺は完全に避けられてると思ってたけど?」
神野はウーロン茶を一気飲みしてコップを置くと、次に箸を持ち、目の前の刺身に手を伸ばした。
「そ、そんなことはないよ。お互い会話する暇もないほど忙しかっただろう? だからだよ……」
「ふーん。俺は一緒に昼飯くらい食べたかったけどね?」
神野は口をわざとへの字にしながらそう言うと、箸で掴んだマグロを口に運ぶ。
「あ、はは、た、確かに……でも僕は一人でゆっくり食べたい派なんだよ。ごめんね。弁当持参だしさ」
神野の返しに負けないように、僕は酒の力も借りながら、何とか言葉を返していく。
「ねえ、ところで、お酒苦手なの?」
僕はまた他愛のない話に持っていこうと、もう一度同じ質問を神野にぶつけてみる。
「うーん、そうだね。苦手というレベルじゃない。全く体が受け付けないレベルかな」
「あーそうか。神野君はアルコールを分解できない体質なんだね。でも健康的で良いね」
僕はそう言うと、特に意味もなく、目の前のビールジョッキのビールを飲み干した。
「桜井君はさ、見かけ全然お酒飲めなさそうなのに、意外だね」
神野は、僕の空になったビールジョッキをまじまじと見つめながらそう言った。
「それ、良く言われる。僕のイメージってどんななんだろう? 自分が一番分からないよ」
やっと他愛のない会話ができるようになったと僕は安堵すると、次にどんな話をしようかと頭を巡らせる。
「そうだなあ……桜井君の俺のイメージは『目立つ』かな。初めて会った時、凄く印象に残ったから。入社式で桜井君を見かけた時は、我先にと声かけたよ」
「そ、そうなんだ……はは、そんなこと初めて言われたよ」
僕は本当にそんなことを言われたことがなくて、意外な気持ちで神野の言葉をありがたく自分に馴染ませる。
「だから、君があの役に選ばれたのかな……」
「え?」
「北村一磨の恋人役」
神野から一磨の名前が出た瞬間、僕は自分の顔が引きつるのがはっきりと分かった。
「あ、ああ、そうなのかな? でもさ、ラジオは姿が見えないんだし、関係ないと思うけどね」
僕は動揺がバレないように、わざと軽いノリでそう言った。
「そうかな。だってあのスタジオにいるみんなにドッキリしかけるならさ、何かこう信憑性みたいなのが必要だろう? 桜井君と北村一磨の組み合わせがさ、凄く自然だったんだよね」
神野は僕に僅かに体を近づけると、急に熱量のこもった口調でそう言った。
「桜井君はさ、演技経験とかあるの? 演劇部だったとかさ……俺、あの時の二人のやり取り見てて、とても演技には見えなかったんだよね。まあ、北村一磨は役者だけど、俺は桜井君の演技に引き込まれちゃって、今でも脳裏から離れないんだよ……」
神野はまた強い目力で僕を見つめた。僕は慌てて神野の視線から目を反らすと、勢いよく立ち上がった。
「飲みすぎたかも。トイレ行ってくる……あ、僕は、神野君の想像通り、高校時代演劇部だったんだよ。いやあ、僕って意外と演技の才能あるんだね!」
僕は平然と嘘をつくと、トイレを目指して足早に歩いた……。
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