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第4話

 あの歓迎会以来、僕は神野と、僕たちがともに経験したあのラジオ放送の話は一度もしていない。僕が演劇部だという嘘を神野は信じてくれたらしく、僕は罪悪感を覚えながらも取り敢えず一安心していた。  奥村も歓迎会の席では、やはり一切一磨のことに触れてこなかった。その代わり、何故制作部を希望したのかをしつこいくらい聞かれ、それに答えるのが大変だった。 『いつか、ラジオ番組を自分で作ってみたいという夢があるからです』と、僕は奥村に正直に伝えた。奥村は噛み締めるように何度も頷くと、『これからたくさん勉強して、俺みたいになれ』とひどく偉そうにそう言った。  神野から昼食を誘われたのは、出社してすぐのことだった。僕は今日も弁当を持参していたが、神野についた嘘の罪悪感から、その誘いを素直に受け入れた。  昼食の場所となったのは、きどったとカフェなどではなく、至って庶民的な定食屋だった。僕は迷わず焼肉定食を頼むと、神野は魚が好きなのか、サバの味噌煮定食を迷わず頼んだ。 「魚が好きなの?」  僕は自然と神野に対する興味が湧きそう尋ねた。 「別に。昨日は肉だったから、今日は魚にしただけだよ」  神野は当たり前だと言わんばかりの落ち着きでそう言った。僕はそんな神野がおかしくて、思わず吹き出してしまう。 「何? 何がそんなにおかしいの?」  神野は不思議そうな顔をしながら僕を見つめた。相変わらず目力が異様に強い。 「いや、神野君って、自然体でいいなって思っただけだよ」  僕は素直にそう伝えると、コップの水を一口飲んだ。 「ねえ、もうお互い君付けで呼ぶのやめないか? 何か小学生みたいで恥ずかしいんだよ」  そう言うと神野は、器用にサバの味噌煮を箸で掬った。 「たしかに。じゃあ、神野君から始めてよ。君付けなしで僕の名前呼んでみて」 「桜井……」 「いいね。何か、同期って感じがするね」  僕はこのやり取りが恥ずかしくて、座りの悪い椅子に腰かけているような気分になる。 「だろう? 俺、桜井ともっと仲良くなりたいからさ。じゃあ、俺の名前も呼んでみて」 「……神野」 「うん。この方がしっくり来る。これでだいぶ距離が縮まったな。これからもたまに昼飯一緒に食べようぜ。桜井」  神野は少し照れくさそうにはにかみながらそう言った。 「あ、ところでさ、北村一磨がさ、今度海外の映画にゲイ役で出演って、昨日ネットニュースで見たんだけど、俺のイメージだと、ゲイの役多くないか? あの時のラジオの時もそうだしさ……もしかしてやっぱり本当にゲイなのかな?」  僕は突然の神野に振られた一磨の話題に驚き、体を強張らせた。でも、落ち着いて観察すると、神野からは、特にその質問で僕を探ろうとしている様子は感じられなかった。ただ純粋に疑問に思ったことを僕に投げかけているように見える。 「もしそうだとしたら神野はどう思う? 嫌悪感覚える?」  僕は神野の気持ちが凄く気になってしまい、口から零れるようにそんな言葉が漏れ出てしまう。 「え? どうしてそう思うんだ? 嫌悪感って何? 俺はむしろ大変だなって思うよ。だって本当の自分を隠して仕事してるんだろう? それって多分、一番心に良くない」  僕は神野の予想外の言葉に胸がぎゅっと苦しくなる。 「そうだね。僕もそう思う……神野は想像力が豊かなんだね。その人の立場になって考えられる」 「そんなこと、普通じゃないか?」  神野はそう言うと、お替り自由のライスの茶碗を持ち上げると、定員に『お替りお願いします』と声を張り上げた。 「うん。そうだね。普通だね」  僕は少しだけ霞む目で、生姜焼きを掬い口に運んだ……。

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