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第5話

 今日の僕の仕事は、制作部に送られてきたメールの整理だった。制作部には、リスナーからのラジオ番組への感想が多く届けられる。僕は、番組ごとに届いたメールを、ディレクターに上げるための選別をしていた。その時、僕はある番組に向けたひとつの感想を見つけてしまった。僕はそれを見つけた時、心臓を鷲摑みにされたような気持ちになった。 『突然のメールを失礼します。僕は以前、こちらのお昼に放送されているラジオ番組を聞いた者です。ゲストは人気俳優の北村一磨さんでした。この日の放送には、ラジオ局に来ていたインターンの大学生が、それぞれ北村一磨さんに質問をぶつけるというコーナーがありました。僕は素直に面白い企画だなと思い、ワクワクしながら聞いていました。でも、最後の人の質問に対し、北村さんは急に男性に愛の告白を始めたのです。僕はとても驚きつつもその熱量に一瞬で心を奪われました。あの時僕は、この告白は本気だと直感的に感じたのです。その時、最後に質問をしたその男性の大学生の様子が、スタジオにいた人たちの慌てぶりから、明らかにおかしいということに気づきました。僕はそこで、きっと北村さんはこの大学生に本気で愛の告白をしているのではないかとピンときたのです。だとしたら凄いハプニングだけど、僕にとってはとても美しいことのように感じたのです。でも、スタジオを飛び出した大学生を北村さんが追いかけた後の番組の対応が、実はドッキリだったと聞かされた時、僕は心からがっかりしたのです。僕は同性愛者です。北村一磨さんの告白を聞いた時に芽生えた僕の勇気は、ドッキリだと知り一瞬で萎んでしまいました。正直言って、これは同性愛者をバカにした企画だと思いました。僕は、このドッキリにひどく傷ついたということをどうしても伝えたくて、今回メールを送らせていただきました。ごめんなさい。僕は少し冗談が通じない奴なのかもしれません。でももう終わったことなので気にしないでください。ただ、そんな風に感じたリスナーが、ここに一人いたということを、どうか覚えておいてください』  僕はメールの全文を読んで絶句してしまった。あの時の僕たちの行動が、偶然ではあれ誰かを傷つけてしまった事実に、僕は胸が苦しくなってしまい呼吸もままならなくなった。  このメールはまだ僕しか読んでいない。このままディレクターに回すべきか動揺してしまい咄嗟に判断ができない。  一磨……僕はどうしたらいい?  僕は霞む目でメールを食い入るように見つめると、そっと保留フォルダにそのメールを格納する。このメールはいずれ埋もれてしまい多分誰にも気づかれないだろう。でもこれは、一旦僕の中で保留という意味だ。僕はこのメールを無視することなどできない。きっと一磨も。  僕は浅くなった呼吸を深呼吸で何とか整えると、仕分け作業を続けた。

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