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第3話

 俺にとってあの日のことは、正直今でもあまり思い出したくない記憶ではある。でも、湊との思い出を語るには、あの日のこと以外はないと思い、俺は重たい口を開いた。 「俺の親友の名前はミナトっていうんだ。ミナトとは高校生の時に出会って、とても仲良くなったんだ。そんなミナトと初めて喧嘩したのは……大学二年生の時でね。今でも強烈に心に残ってるんだよ……」  俺はローワンとローワンの夫を気まずそうに見つめながらそう言った。二人は目を輝かせながら俺の話を待っていて、俺は正直『参ったな』と思いながら、あの日の湊との出来事を語り始めた。  あの日は、湊とラジオの公開収録に行く予定だった。既に、二人で公開収録に行くことは何度かあったが、あの日は、俺が割と好きな作家がゲストに呼ばれている日で、いつもより俺のテンションは上がっていたのは確かだった。  待ち合わせ時間は午後1時だった。収録開始は午後の2時で、開始時間の30分前になっても姿を現さない湊に、俺は最初、ひどく珍しいと感じだ。湊は時間にルーズな男じゃない。真面目で几帳面な男のはずだ。俺は勝手にそう思っていたから、30分前になっても姿を現さないことに、急に不安になった。もしかしたら、途中で事故に遭ってはいないかとか、突然体調を崩し救急車で運ばれてはいないかとか、悪い妄想が俺の脳内を埋め尽くしていく。  俺はすぐに湊の携帯に電話をかけるが、全く繋がらない。それこそ2分置きぐらいに、俺は何度も湊へ電話をかけた。あの時の俺は、確実に冷静さを失っていたと、今でもあの日のことを思い出すたび、そんな自分が心底嫌になる。  俺って多分、確実にストーカー気質持ちなんだと思う……。  俺はローワンとローワンの夫を見つめながら、その部分は少し抑え気味にして話した。  待てど暮らせど湊は現れなかった。気付くと公開収録は既に始まっていて、俺は好きな作家に会えないことを少しだけ残念だとは感じたが、そんなことよりも、湊がいない収録など全く意味がないと思い、俺はあっさり公開収録に行くことを諦めた。  俺はいつも二人で収録後に行く喫茶店に入り、そこで湊を待つことにした。その間も俺は何度も湊の携帯に電話をかけた。もしかしたらラインだったら気づくかもしれないと思い、それこそラインも数分刻みに送り付けた。  自分の異常な行動を冷静に顧みることが、あの時の自分には全くできていなかった。俺はただただ、不安と焦りに頭を支配されていて、何かに憑りつかれたみたいに、スマホから目が離せなかった。  喫茶店に長居できるのは精々2時間ぐらいだろう。俺はその間、いつも頼むコーヒーを3、4杯ぐらい飲みながら、喫茶店に居続けた。その間俺が湊に電話やラインをした回数は、有に50回を超えていたことに気づいても、俺は自分の行動を異常だとは思わなかった。  喫茶店にいる間、俺は本当に頭がおかしくなりそうだった。色々な妄想が自分を犯しまくってくるからだ。自分の妄想の中で一番恐れていたのは、湊がもう俺との友人関係を続けたくないと思っていることだった。でも、何の前触れもなくいきなり俺との関係を断ち切るようなことを、誠実な湊がするわけがないし、その可能性が一番低いと分かっていても、その不安が一番俺を苦しめた。  俺は、喫茶店に入ってから2時間が過ぎたことを確認すると、店を出て、湊の家に向かうことにした。初めからそうすれば良かったが、湊が家にいたらいたで、いきなり核心的な話をされるのではないかという妄想が、自分をより苦しめることを分かっていたから、俺はそれを躊躇っていた。  俺は意を決して湊の家に向かうと、その間も懲りずに何度も湊に電話をかけた。もちろん、湊からの着信も、ラインの返信もない。 湊の家に着き、湊が家に居ないことを確認すると、俺は少しだけ安堵しながら、そのまま自分の家に戻った。俺は本当に疲れてしまい、家に着いた途端、湊へ電話をかける気力が完全になくなってしまっていた。湊に嫌われてしまったのではないかという自分の妄想に、俺の魂は完璧にノックアウトされてしまったからだ。  俺はわざとスマホの電源を切り、目の付かないところに隠すことで、何とか一晩をやり過ごした。でも結局一睡もできなかったことは言うまでもない。  ローワンとローワンの夫は真剣に俺の話を聞いている。こんな話大して面白くもないと思うのだが。  一旦ここで、小休止をした自分に、ローワンが俺の目を覗きこみながら急かすように『カズマ、続きを早く聞かせてよ』と言った。 「オッケー、ちょっと待って……」  俺はそう言うと、軽く両腕を上にあげて伸びをした。

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