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第4話
次の日の朝、起きてすぐにスマホを確認すると、湊からの着信も、ラインの返信もないことに気づいた。俺はその事実に愕然としてしまい、その場に膝から崩れ落ちそうになった。
俺は、廃人にでもなってしまったような気分で、何とか大学に行った。本当は休みたかったが、運悪く、その日は期末試験がある日で休むことができなかった。
試験が終わり、帰り支度をしている時、俺のスマホが鳴った。俺は心臓が飛び上がりそうなほど驚き、それこそ床に2回もスマホを落としてしまった。
俺は床から慌ててスマホを拾い上げると、着信画面の湊という文字に気づき、震える手で画面をタップした。
「もしもし……」
俺は自然と震えてしまっている自分の声に驚く。
「……ああ、一磨……今、一磨の大学に来てるんだ。今から会えるかな?」
自分の問いかけに返事をしない俺に、湊は躊躇うように、『校門の前で待ってる』と告げ、電話を切った。
俺はもの凄く嬉しい癖に、何故か強い怒りに頭が爆発しそうだった。自分をこんなにも苦しめた湊に対する怒りは、どうしようもないくらいの愛情からだと知らしめてやりたくなった。でも、そんなことできるわけがない。
『お前が死ぬほど好きなんだ! 愛してるんだ!』と伝えられたらどれほど楽だろう。自分の中に押し込めているこのドデカく重い感情を湊にぶつけられたら、俺の心は例えそれが叶わないとしても、強い自由を手に入れられると、あの時の俺はそう強く感じていた。
校門で湊の姿を見つけた時、本当は今すぐにでも湊を抱きしめたかった。俺を申し訳なさそうに見つめ項垂れる湊を、強く強く抱きしめながら、『好きだ! 愛してる!』と言いたかった。
でも、それができないことが分かっているから、俺は自分の怒りをただ湊にぶつけることしかできない。
俺は湊から待ち合わせに行けなかった理由を聞いて、怒りが倍増してしまった。朝まで大学の連中と酒を飲み、目が覚めたら夕方の5時だったと聞いた時は、その危なっかしい状況もそうだが、湊がそんなテキトーな人間だということが信じられなかった。
俺は湊に自分の怒りをぶつけまくった。
『ものずごく心配したんだぞ!』『何で返事をすぐにくれなかったんだ?』『湊がこんなテキトーで薄情な奴だとは思わなかったよ!』
俺の怒りのすべてには、湊に対する強い愛情が裏打ちされているのに、湊にとってはただの悪口にしか聞こえないだろう。
俺は、俺に謝ろうとしている湊に、わざと被せるようにして湊を責めた。湊は今にも泣きそうな顔をして俺を睨んだ。その時、ふっと一瞬だけ冷静になる自分がいた。
『まずい』という感情が芽生えた時には、時すでに遅しだった。湊は涙を一粒落とすと、俺の前から姿を消した。
俺はその夜、ひどい後悔に苛まれた。俺の大学に来てまで謝ろうとしてくれた湊に、自分の一方的な感情を垂れ流すようにぶつけてしまった自分の愚かさに虫唾が走る。このまま本当に湊との関係が壊れてしまったらと思うと、俺は恐怖で体が震え始める。
時刻は深夜の1時だった。俺は躊躇わず湊に電話をかけた。湊も起きていたのか、コール3回で湊は電話に出た。
「もしもし……湊?」
「……そうだよ。他に誰がいるんだよ」
湊の声は明らかに掠れていて、もしかしたらあの後、もっと泣いたのかもしれない。
「……だよな。ごめん」
俺は自分から電話をかけたのに、何を話して良いか分からず沈黙を作ってしまう。
「……僕も一磨に電話しようと思ってたんだ。でも、勇気が出なくて。だから、一磨から電話貰えて、正直嬉しい……」
湊はささやくように儚げな声でそう言った。
「あのさ……僕が悪かったのに、余りにもひどい言われようだったから、つい悔しくて……急に帰っちゃってごめんね」
湊はまだ黙ったままの俺に向かってすまなそうにそう言った。俺は湊のその優しさに胸がじんわりと熱くなる。
「あんなに僕のことを心配してくれて、ちょっと驚いたけど……すごく嬉しかったよ。本当はすぐに電話しようと思ったんだよ。でも、一磨に嫌われたらどうしようって思ったら、怖くてできなかったんだ……本当にごめん!」
湊が顔を顰めながら俺に謝っている姿が目に浮かぶ、湊の謝罪にはいつも心が込められている。湊はそういう人間だ。いつだって素直に、自分を顧みることができる人。
「……俺もつい言い過ぎちゃってごめん。だって、湊が朝まで酒飲むとか、すげー予想外だったから」
俺はわざと湊をからかうようにそう言った。
「だから、ごめんって。あの日はどうしてもゼミの子の誘いを断り切れなかったんだよ。僕だって予想外だったんだからね」
湊は焦ったように、声を少しだけ荒げながらそう言った。
「分かったよ……もういいよ。でも、もう二度とこんな思いをさせないでくれよ?」
俺は、今度はかなり真面目なテンションで湊にそう伝えた。本当にそうであって欲しいと心から願いながら。
「もちろん。僕は一磨に嫌われたら生きていけないからね……一磨。これからもよろしくね……」
俺は湊の言葉に素直に感動してしまい、涙がじわりと溢れて来る。
「はっ、何だよ、それ……」
「あれ? 一磨、泣いてるの?」
困ったことに、勘の良い湊は俺の変化に素早く気づいてしまう。
「な、泣くわけないじゃん……あ、あれ? 何だよ、もしかして湊も泣いてる?」
俺は電話口の湊の声が、少しだけ涙声に聞こえてそう言った。
「泣いてないよー、残念でしたー」
湊はわざと明るくそう言い返すから、俺も同じように言い返してやる。
そんなやり取りを繰り返していると、あの時の俺は、このまま湊とただの友人関係を続けていくことが、お互いにとって一番の幸せだと思うことにした。だって、仲直りできた今が、現にこんなにも幸せなのだから……。
俺はそこまで話すと、ハッとして我に返った。どうやら話すことに集中しすぎてしまい、自分が二人に対して、湊に対する感情をどこまで見せてしまったか分からなくなる。
「ふーん。なるほどね」
ローワンはそう言うと、意味深な笑みを浮かべながら俺を見た。そして、隣にいる自分の夫と見つめ合い、アイコンタクトを取り始める。
「ありがとう。カズマ。二人の話、とても面白かったよ。僕は増々カズマが好きになったよ。今度、君のボーイフレンドのミナトに会わせてくれよ」
俺はローワンの言葉を聞き、その場でこれでもかと深い溜息を零した。
はあ、俺ってただのバカじゃないか?
「……ロ、ローワン。何か誤解してないか?」
俺は無駄だと分かっていても、取り敢えずそう聞いてみた。
「いや、してないよ。うふふ」
ローワンは楽しそうに笑うと、突然俺の目の前で『サイコ~』と叫びながら、自分の夫に熱いキスを浴びせた……。
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