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第7話
映画の撮影はやっとクランクアップし、残りの2か月はプロモーションに使われる予定になっている。
撮影最後の日に、打ち上げという形で、撮影現場近くのバーで酒を飲んだ。それは朝まで続き、俺は、撮影最後の1週間は、睡眠時間をかなり削られていたのもあり、その日の打ち上げはあまり体調が芳しくなかった。
それでも、映画のクランクアップを記念して皆で祝う席で、体調の悪さを見せるのは悪いと思い、俺も酒を飲みながら朝まで付き合った。
打ち上げから2日後に、プロモーションを行うために、トロントにある映画館の舞台挨拶に行かなければならなく、俺はバンクーバーからトロントに向かう飛行機に乗った。
フライト時間は4時間ぐらいかかると知った時は、軽い眩暈を覚えた。
ずっと咳と軽い微熱が続いている。でも、俺はそれを隠して、飛行機に乗った。
市販の薬を買ってホテルで飲んだ。翌朝には熱は下がり、咳もあまり出なくなった。俺はそうやって自分の体を薬でやり過ごしながら、トロントでの仕事を何とか熟した。
トロントでの仕事が終わると、今度はカルガリーで行われる映画祭への出演が待っていた。トロントからカルガリーまでは、やはり飛行機で4.5時間くらいかかると知った時は、カナダの国土の広さに嫌というほど打ちのめされた。
おい、おい、カナダってどんだけ広いんだよ!
俺は飛行機に乗りながら、重たい頭を背凭れに押し付ける。
あー、調子が悪いな……カルガリーに着いたらまた薬を買わないと……。
俺はカナダのプロモーションが終わったら、今度は、アメリカ、イギリスと続くスケジュールに、正直気が遠くなるのを感じた。自分の体力には自信があったが、今のこの自分の状態には、流石に限界を感じてしまう。
それでも俺は、このスケジュールを頑張って熟そうと自分を鼓舞した。この仕事早く終わらせれば、少しでも湊と会える時間を早められると思うと、この程度で負けてたまるかという大和魂が自ずと芽生えてくる。
そうだよ! カナダにいても、俺は生粋の日本人なんだよ!
俺は自分にそう喝を入れると、カルガリー空港に気合を入れて降り立った。
でも、多分俺の大和魂は完全に裏目に出たのだと思う。俺は気合で何とかカナダのプロモーションを終わらすことができたが、その後からは、市販薬でも抑えきれないほどのひどい咳に悩まされた。流石に関係者から病院に行くことを勧められたが、俺はそれでも大丈夫だと虚勢を張った。
カナダでの最後のプロモーションの都市であるモントリオールから、次のプロモーションの場所であるニューヨークまでのフライト時間は、ちょうど1時間ぐらいというのもあって、俺は迷わずニューヨークに向かい、テレビ局のインタビューを受けた。
さすがに体調があまり良くない俺を心配してくれた映画会社が、ニューヨークでのプロモーションをコンパクトにしてくれた。そのおかげで、俺は何とかバンクーバーに一旦戻って来ることができた。
バンクーバーでの少しの休憩の後には、イギリスでのプロモーションが待っている。今の俺は多分ランナーズハイみたいなものだから、このままこの勢いに任せて突っ走ることができると、俺はそう高を括っていた。
しかし、人間というものは多分、かなりの超人でない限り、必ず限界というものが訪れるのだろう。俺はニューヨークからバンクーバーの賃貸アパートに戻ると、電池の切れたロボットのように完全に動けなくなった。呼吸がもの凄く苦しいのと、高熱のせいで意識が朦朧としてしまう。
それでも俺は何とか自力で救急車を呼ぶと、救急隊員が到着した頃には、完全に意識を無くしていた……。
第7章に続く
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