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第2話

 バンクーバーに着いたのは、僕が日本を出国した日の午前10時頃だった。時間が巻き戻された感覚に、これが時差というものかとぼんやりとした頭で考えた。  空港に着くとすぐ、タクシーで、マネージャーと一緒に一磨が入院する病院へ向かった。  僕は、フライト中に少しでも睡眠を取ろうと思ったが、結局一睡もできなかった。ただ、夢の中にいるようなそんな感覚に身を委ねていた。  フライト中の僕はまだ、一磨の身に起きていることを現実として捉えることができていなかったからだ。どこかで、これはドッキリで、一磨が入院している病院に行ったら、ドッキリと書かれたプラカードを見せつけられるのではないかと期待してしまう自分がいた。  でも、一磨が入院している病院が近づくにつれ、それは徐々に、僕に恐怖として立ちはだかって来た。だから僕は、一磨の世界の中心である僕が、今こうやってちゃんと生きているのだから、絶対に一磨が僕の人生からいなくなるはずがないと。僕はまるで念仏を唱える僧侶のように、そう何度もその言葉を脳内で反芻しながら、必死に恐怖と戦った。  一磨が入院している病院は、日本と比べるととても大きく静かだった。待合室はまるで、ホテルのロビーのように広く落ち着いていて、逆にその異様な静けさが、僕に不安と恐怖を増々与えてくる。  マネージャーはすぐに受付に声をかけた。 受付の女性はフレンドリーにてきぱきと、マネージャーに何かを伝えた。 「湊君。今から一磨君の担当医師が病状を説明してくれることになったよ。僕が聞いて来るから、君はここで待ってて」  マネージャーは僕の所に来ると、真剣な顔でそう言った。 「分かりました……」  僕はマネージャーそれだけを言うと、脱力したように俯いた。 「大丈夫だよ。絶対に。だって受付の人、凄く軽い感じで僕に対応したよ。しかも笑顔でさ」  マネージャーは僕の肩に手を載せると、そう元気よく言った。 「でも、でも、それはただの事務的なやり取りであって……もし、違ったら? もし、もし、もっと悪い状態だったら? ねえ、そうだったらどうしよう!」  僕は頭を抱えながら叫ぶようにそう言った。 「湊君! 大丈夫だよ。多分一磨君は君に早く会いたくて、体調が悪いのに無理して仕事を頑張っちゃったんだと思うよ。ほんとバカだね。だから今頃、湊君に会いたい一心でさ、必死に感染症と戦ってるはずだよ」  僕はマネージャーの言葉に、我慢していた涙をぽろぽろと零した。  僕も会いたかったよ、一磨……でも、こんな形で会いに来たくなかったよ!  僕が心の中でそう叫んだ時、受付の女性が、マネージャーに声をかけてきた。 「行きましょう。私に付いてきて」  受付の女性の言葉に、マネージャーは緊張した面持ちで頷くと、二人は僕の前から姿を消した。  神様、どうか、どうか、一磨を助けてください!  僕は待合室の片隅で、心の底からそう強く願った。

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