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第3話
長旅の疲れと睡眠不足のせいで、僕は待合室の壁に凭れながら睡魔に襲われていた。睡魔に逃げてしまう自分は、どこかでまだ現実逃避をしたいと考えているのだと、自虐的にそう思った。
僕が一磨の中心で居続けるために、自分が強くならなきゃいけないのに。
そんな覚悟など、これっぽっちも持てていない今の自分に、僕は心底落胆してしまう。
その時、僕の前に誰かが近づいて来るのが分かった。
「お待たせ。湊君」
僕はその声にハッとして、俯いていた頭を勢いよく上げた。
僕の目の前には一磨のマネージャーが立っていた。マネージャーは、僕の顔を見るなり、にっこりと笑った。
「聞いて、湊君。一磨君は山を越えたってさ。意識もしっかりあるみたい。細菌さえ倒してしまえば、若くて体力もあるから、明日には普通病棟に移れるって。良かったよ。本当に良かったよ……」
ずっと堪えていたのか、マネージャーはいきなり涙ぐみながらそう言った。
僕は椅子から立ち上がると、マネージャーに思い切り抱きついた。体格が大きいから僕の腕では中々マネージャーを包み込むことができない。
「良かったよー、良かったよー、ううっ、僕はもう、一磨が死んじゃったらって思ったら、本当に、本当に……ううっ、生きていけないって……そう思って……」
僕も子どもみたいに泣きじゃくりながらそう言った。
「あはは、一磨君が湊君を残して死ぬわけがないじゃないか。もの凄い執念で生きようとするよ。もう、本当に一磨君はバカだねー」
僕たちは異様なくらい静かな待合室で、人目も憚らず歓喜し合った。
「さてと、一磨君は経過次第では、4日後には退院できるらしいよ。それまで面会はできないみたいだね。今日は火曜日だから、退院は土曜日かな。湊君はどうする? 休暇は何日取ってるの?」
「え? 何日……それは、一磨の容態次第だったので、決めてません。でも、もちろん一磨に会ってから日本に帰ります」
「そうだね。僕は一磨君の退院を確認したら日本に戻るよ。あ、念のため、湊君の分のホテルも予約しておいたよ……場所はここだよ。僕はまだやることがあるから、ホテルに着いたら、何泊するか自分でフロントに伝えてね」
マネージャーは僕のスマホに、ホテルの情報を素早く送った。
「ありがとうございます。本当に、何から何まで」
一磨には、こんなに素敵で優秀はマネージャーがいることに、僕は心から嬉しくなる。
「じゃあまた。湊君。一磨君をよろしくね」
マネージャーは、僕の意思を確認するようにそう力強く言った。
僕はその意思を自分の心に強く刻むように、力強くマネージャーに頷き返す。多分マネージャーも分かっているのかもしれない。一磨のためにも僕が強くいなければいけないことを。
取り敢えず僕は、ホテルの場所をすぐに確認した。でも、本当に勢いで海外まで来てしまい、急に我に返ったように、今いる自分の場所に激しく戸惑ってしまう。
どうしよう。ここはカナダなんだよな……。
僕はスマホを強く握りしめると、ホテルへの行き方を調べ始める。どうやら僕が泊まるホテルは、この病院からだと、電車で30分ぐらいの場所にあるらしい。最寄りの駅は、病院から歩いて10分ぐらいのところにあるようだ。
僕は意を決すると、その駅に向かって一歩踏み出した……。
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