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第7話

 何度も繋がり合った僕たちは、シャワーをふらふらの状態で何とか浴びると、二人まるで気を失うようにベッドへ倒れ込んだ。   セミダブルのベッドは男二人では狭くて、僕たちは猫の親子のように体を丸く寄せ合いながらくっ付いて寝た。  目が覚めたのは僕の方が早かった。僕は今日にはもう日本に戻らないといけない。突然の休暇を一週間も取ってしまい、職場と、特に神野にたくさん迷惑をかけてしまった。  今日の16時発の飛行機に乗る予定だ。僕は素早く時計に目を遣ると、時計は7時半を指していた。  僕は一磨を起こさないように、そっとベッドから降りようとした。 「……おはよう。湊」  その時、背後から手が伸び、僕の腰をその手が掴んだ。僕は自分の腰をしっかりとホールドする手を、愛おしむように見つめた。 「おはよう。一磨……体の調子はどう?」  僕は振り返ると、不安を込めてそう問いかけた。 「すこぶる元気だよ。湊をたくさん抱いたから、体中にエネルギーが充満してる感じだよ」 「ふっ、もう、やめてくれよ」  僕はそう言って笑うと、一磨と向き合うようにまたベッドに寝転んだ。 「僕は今日、日本に帰るよ。一磨は? 残りのプロモーションがあるんだろう?」  僕は胸の痛みを隠しながらそう言った。本当はこのまま一磨とここにいたい。今日も、明日も明後日も、一磨と繋がっていたい。 「……そうだね。イギリスのプロモーションがまだ残ってる。でも、それも4.5日で終わるから、俺も来週明けには日本に帰れると思うよ」  僕は一磨の言葉にホッと安堵する。やっと一磨が日本に戻って来る。入院というアクシデントはあれども、大きな仕事を終わらせたことで、役者として一回り成長した一磨を、僕は尊敬の眼差しで見つめた。だからこそ、僕は今ここで、あの話を一磨にして良いのだろうかという不安が生まれてしまう。  一磨……君ならどうする?   僕はそう心の中で呟いた。 「一磨、大事な話があるんだ。聞いてくれるかな?」  僕はそう言うと、そっと体を起こしベッドサイドに体を擡げた。一磨は少しだけ驚いた表情を作ると、『もちろん』と言い、僕と同じような態勢を取った。 「あの日のラジオ放送のことはもちろん良く覚えているよね? 一磨が暴走しちゃった時のだよ。実はさ、僕のラジオ局に、あの日の放送を聞いた男性からメールが届いたんだ。これだよ……読んでみて」  僕はスマホでスクショをしておいたメールの画像を一磨に見せた。一磨は僕のスマホを手に取ると、真剣に目を走らせる。 「はっ、なるほど……これは確かに、胸に来るね……」  一磨は途切れ途切れにそう言うと、思い詰めたようにしばらく黙り込んだ。 「一磨、僕が言いたい大事な話ってのはね、僕たちの関係を、二人でラジオで放送しないかってことなんだ。つまりそれは、あれはドッキリなんかじゃなくて、本当のことなんだよってことをね、僕はちゃんと伝えたいと思ってるんだよ」  一磨は驚いたように顔を上げると、僕の顔を不思議そうに見つめた。 「でもそれは、一磨の芸能生活や、もちろん一磨の事務所にも大きな影響を与えてしまうよね。一磨に芸能人を続けろなんて言った僕が、今更何を言ってるんだって思われてもおかしくないよ。そのことに関しては本当にごめん……ただ、それでも僕は、誰かを傷つけたままではいたくないんだ……」  僕は黙ったままの一磨に不安になり、そっと一磨の手を握った。 「はあ、ごめんね。こんなの僕の我儘だよね……一磨が嫌なら、僕は諦めるよ」  僕は一磨の手をぎゅっと握ると、そう決心するように言った。 「違うよ。俺は今、めちゃくちゃ感動してるんだよ……」 「え?」  一磨は僕の手を強く握り返すとそう言った。その声音は、どこか震えているように感じる。 「大賛成だよ。湊は俺が反対するとでも思ったの? だったらすげー心外だな。俺はこんなに芸能人を辞めたいと思ってたのに?」 「一磨……」   僕は何も言い返せず、言葉に詰まってしまう。 「あのね、正直に言うよ。湊は驚くと思うけど、俺、カナダで映画の仕事をして本当に良かったと思ってるんだよ。それはさ、初めてこの仕事に対して純粋に情熱を持てたからなんだよ。この仕事をずっと続けていきたいってそう思えたんだ……それって、俺にとって凄い変化だと思わないか?」  僕は一磨の言葉に衝撃を受ける。一磨のその気持ちが心の底から嬉しいのに、それでは僕のやろうとしていることは、一磨の情熱を奪うことになってしまう。 「ダメだ。やっぱりこの計画は無しにしよう。そうだよ、僕は何を考えてたんだろう」  僕は頭を抱えながら、何度も首を左右に振った。 「湊、聞いて……俺はいつカミングアウトしてもいいって言ったよね? それを、湊とラジオでできるなんて、こんな幸せことないんだよ。湊だってリスクあるんだぞ? 多分放送後は、想像以上に面倒なこと多くなると思うし。それでも決心したんだろう? それはあのメールの彼のためでもあるし、俺のためでもある。違うか? 俺はその溱の決心が、もの凄く嬉しいんだよ!」  一磨は僕の両肩を掴むと、熱のこもった声でそう言った。 「そうだけど、でも、一磨の情熱を僕は壊したくない。やっぱり君は、この世界でもっともっと輝く存在でいるべきだから……」 「湊! 忘れるなよ。俺の中心は誰だ? 湊だろう? 俺は何度も言ってるぞ。湊の決めたことに俺は逆らわないって。役者なんて、やりたきゃどこでもできるんだよ。それに、もし、俺のカミングアウトで日本の芸能界が少しでも変わるなら、こんなワクワクすることないんだよ。だから、湊のやろうとしていることは正しい! 俺はそれについて行く。さあ、ひとまず、俺は何をすればいい?」  一磨は瞳を爛々と輝かせながら、そう一気に捲し立てた。僕は一磨の勢いに気圧されてしまい、しばらくぼーっとしてしまう。 「わ、分かった……一磨はまず、事務所の社長に相談してみてくれるかな。僕の方は、このホテルに滞在してる間に、ラジオ放送の企画構成案を練っていたんだ。それをすぐ、プロデューサーに提案するよ」 「分かった。必ず社長を説得させてみせるぜ!」  一磨はそう言ってベッドから飛び降りると、右手の拳を強く突き上げる。 「あー湊! 大好きだ。本当に世界で一番大好きだ!」  一磨はそう叫ぶと、僕の手を引っ張りベッドから引きずり下ろした。そして、軽々と僕を抱っこすると、あの真冬の深夜の公園の時と同じように、僕を抱えながらぐるぐると回った……。

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