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第8話

 日本に戻って僕がすぐにするべきことは、僕が企画したラジオの構成案を、プロデューサーの奥村に見せることだった。それはかなりの勇気が要ることで、僕は職場に戻ってから、そのタイミングを常に伺っていた。  プロデューサーの奥村はいつも忙しく、席を外すことも多かった。今日こそはと思っても、まるで運命に邪魔をされているみたいに、上手くタイミンギを掴むことができないでいた。気づいたら、日本に帰国してから一週間が過ぎてしまった。  僕が、奥村に構成案を見せることができずにいる頃、一磨がカナダから帰国をした。帰国と同時に、一磨の映画の番宣が今度は日本で行われる。一磨は一磨で、このタイミングで事務所の社長にこの計画を話し、理解を得られるのか。僕は正直不安で仕方がなかった。  多分、事務所は一磨のこの映画にかなり力を入れているだろう。実際一磨の演技力の評価は高く、興行収入もうなぎ上りだ。  僕はくじけそうになる自分の心を『大丈夫だ!』と励ますと、もう一つのやるべきことを実行に移そうと、昼休憩に神野を屋上に誘った。  神野の分の弁当を僕は今日用意をしている。一磨が知ったら多分もの凄く嫌がられそうだなと思ったが、背に腹は代えられない。 「神野の分の弁当を作ってきたんだ。僕の突然の休暇のお礼だよ。たいした弁当じゃないけどね」  僕はそう言って神野をランチに誘うと、神野は驚いたように目を丸くした。驚くと更に目力が半端ない。神野は戸惑いながらも僕の誘いを受けてくれた。  二人屋上のベンチに腰かけ、弁当を食べ始めた。たいした弁当じゃないとは言ったが、いつもより一時間早起きして、かなり気合を入れて作ったことは、神野にも一磨にも内緒だ。 「僕が休暇を取ってる間、僕の仕事をカバーしてくれ本当に感謝してるよ」  僕はウインナーを頬張りながらそう言った。 「お礼なら、帰国後すぐ俺にしただろう? 何度も言わなくていいよ。水臭いよ」  神野はぶっきらぼうにそう言うと、卵焼きを口に運んだ。 「そうだね。確かに。でも、本当にありがたかったから、弁当作ってきたんだよ。どう? 美味い?」  僕は、自分の弁当を食べる神野の表情を伺いながらそう言った。 「……美味いよ」 「ああ、良かった」  僕はそう言うと、深呼吸を一度だけ大きくした。 「あのね、神野、突然だけど……僕は君に嘘をついているんだ」  僕は持っていた箸を弁当箱の蓋の上に置くと、意を決しそう言った。 「嘘?」  神野はきょとんとした顔で僕を見つめた。 「そう。あの時の、君と僕が出演したラジオ放送は、ドッキリなんかじゃなかったんだ。あれは本当にただのアクシデントだったんだよ。僕と一磨は、本当に愛し合ってる。僕が今回休暇を取ったのはね、一磨が、カナダで肺炎で入院したからなんだよ……僕が演劇部だなんてのも嘘だよ……本当にごめん!」  僕はベンチから立ち上がると、勢いを付けて神野に深々と頭を下げた。数秒間その体勢のままでいた後、そっと頭を上げると、神野は箸を握りながら口をぽかんと開けている。 「ほら、やっぱり嘘だった!……俺の勘は当たってたんだよ……何だよ。やっぱりそうなんじゃないか!」  神野は箸をぎゅっと握り締めると、興奮したようにそう言った。その反応はどこか喜んでいるようにも見える。 「怒らないの? 嘘をついた僕を嫌いにならないの?」  僕は恐る恐るそう問いかける。 「は? 何で? 正直に伝えてくれてむしろ凄く嬉しいよ。俺が桜井の特別になれたみたいでさ」  神野は、握り締めた箸を、落ち着きなく上下に動かしながらそう言った。 「でも、僕たちに対する偏見とか、不快感とか、そんな感情はないの? やっぱり僕自身のセクシュアリティを分かってしまったら、僕と距離を置きたくなるよね?」  僕は今日、人生で初めて自分からカミングアウトをしてしまったから、この状況に急に怖くなる。 「否、むしろ近くなったよ。偏見? 不快感? 俺がそんな感情持つと思ってんなら、それこそ俺に失礼だぞ?」  神野はそう言うと、グーで握っている箸を、そのまま空揚げに思い切り突き刺した。 「そ、そうか……そうだよね。ごめんね」  僕は神野の言葉に胸が締め付けられてしまい、急に食欲が萎えてしまう。神野は変わらず、僕の作った弁当を黙々と食べ続けている。    僕は弁当を食べ終わったら、自分が企画をしているラジオ放送の話を神野にしよと思っている。多分神野は、僕と一磨の行動を理解し、味方になってくれるはずだ。  僕は何故か、自信を持ってそう思えた……

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