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第7話 ふたり①
「‥‥‥‥‥は?」
継信が訳がわからないといった顔で光映を見た。光映はベッド下から継信の顔を見上げる。大好きな顔。さっきあんなに泣いたから、まだ目じりが赤いし、頬も濡れていて鼻の頭も赤い。
「継信、愛してる。好きじゃ足りないくらい、お前が大事で、傍にいたい」
「っ、じゃあ、なんで!?」
そういう継信の強張った手を光映は離すまいとしっかり握りしめた。
「聞いてくれるか?」
光映の真面目な様子に、また泣きそうな顔になっていた継信は、黙って頷いた。すぐ俯きそうになる継信の顔をちゃんと見ていたくて、光映はベッド下に座って継信の顔を見上げたままだ。
「‥‥俺は、小学校くらいからずっとお前のこと好きだった」
「え?」
驚いた顔をする継信に、ふっと笑いかける。
「お前、自分の事キモいだろって言ってたけど、俺の方がよっぽどキモいからな」
「光映‥」
温かな継信の手を握りしめたまま、光映は言葉を続けた。
「でも‥男同士なんてさ、‥この国じゃ結婚もできねえし理解もされない。未来なんて、ねえんだよ。継信は男しか好きになれない訳じゃないだろ?‥‥だから‥ちゃんと女子を好きになって、結婚とかして、子どもとか作って普通に幸せになってほしいと思ったんだ」
継信は驚きと戸惑いと、喜んでいいのか悪いのかわからない複雑な感情に揺さぶられながら光映の話を聞いていた。話しながらも継信の手はずっと握られたままだ。
「今も‥正直、どうすればいいかわからない。俺と一緒にいない方が継信は幸せになれるとは思ってる。でも‥継信が辛い目に遭った時に傍にいられないのは嫌なんだ。‥‥継信と、話せないのも‥嫌だ‥」
光映は握りしめた継信の手に額をつけた。唇が震えているのが自分でもわかった。
もう一つ、継信に言っておかなければならないことがある。
きっと、それを言えば‥継信も、自分の事を受け入れられなくなるはずだ。
「‥‥継信」
顔を見てはとても言えない。そう思って握りしめた継信の手に、光映はたまらなくなって唇をつけた。柔らかな感触に、継信の手がびくっとしたのがわかる。
「それに‥俺‥‥継信のこと‥好きだ、好きだけど‥」
「‥けど、なんなの‥?」
お互い少しずつ湿ってきた手のひらを握る力を強くした。すう、と息を吸って、吐く。
「継信に、は‥抱かれ‥たい‥って思って、る‥」
絞り出すように吐き出した言葉が落ちた後は、部屋の中がきん、と耳鳴りがしそうなくらい静かに感じた。力を込めて握っている手のひらからはなにも伝わってこない。返事が来るのも、顔を見るのも怖くて、光映は身動きができなかった。
ただ、握りしめた手が引かれない事実だけが、光映に呼吸を許している。
だが、その手がすっと引かれた。
光映は息が止まった。
ああ、なぜ、言ってしまったんだろう、こんな醜い欲を。ただ、好きだという気持ちだけで終わればよかった。
傍にいたいから、押し隠してきた気持ちを吐露したのに、本末転倒だ。きっと、気持ち悪いと思われた。引かれた。
嫌われたかもしれない。
瞬きの間にそういった考えが頭の中をぐるぐると回って、それらが光映の目に涙を押し上げてきた。
空になった手を、震えながら握りしめて自分の膝に落とした。その膝にぽたりと水滴が落ちて、染みを作った。
「光映」
俯いていた光映のその顎を、継信の細い指が捉えた。え、と思う間もなくくいっと上げられて、その唇に何か柔らかいものが重なった。
「!?」
大きく見開かれた光映の目に入ってきたのは、視界いっぱいの継信の顔。少し赤く腫れた目元にはまだ涙が滲んでいて、伏せられた睫毛も濡れているのがわかる。
え?え?
戸惑っているうちにずるりと継信がベッドから降りてきて光映の身体ごと抱きしめてきた。右手は光映の後頭部を支えていて、重なった唇から逃れられないようになっている。
ちゅ、と下唇を軽く吸った継信が、少し離れた。
光映の瞳からは二筋の涙が零れたままだ。何が起きたのか理解できず混乱している様子の光映を見て、継信はふふっと笑った。
そしてまたぐっと右手に力を入れる。目を閉じた継信の顔が近づいてくる。
(ええ?)
重なった唇の隙間から、今度はぬるりと舌が入ってきた。少し小さな継信の舌は、ねろりと光映の上顎を舐める。
「っ!」
ぞくぞくぞくと背中を快楽が奔った。身体の熱が上がってくる。継信の舌の動きは、とてつもなく淫靡だった。咥内を探るように舐めしゃぶられて、その快楽に光映は痺れた。
ぷは、と息苦しくなって唇を離した継信は、光映の頬をするりと撫でて笑った。
「よかった、光映」
「な、にが、」
「おれ‥光映を抱いて、滅茶苦茶に抱いておれのものだっていう印をつけたかった」
継信はそう言って光映の耳の後ろにちゅっと口づけた。そして、光映の腕を取って立ち上がり、ベッドに倒れ込んだ。
「嬉しい、光映」
「あ、ちょ、継の、ぶ」
「嬉しい、嬉しい嬉しい、光映」
昂奮した様子の継信の手が、シャツの裾から這入りこんでその肌をさする。すべらかな継信の手のひらと指が、光映の腹部を辿っていく。光映は呼吸をどうやってしているのか自分でわからなくなっていた。
「ふ、ぅっ、継信っ、待っ、」
「好き、好きだよ光映、光映」
「ああ、あ」
ずるりと継信の手がシャツをめくり上げ、光映の胸と腹が露わになった。継信の息が光映の肌にかかる。継信はそのまま、光映の臍の上あたりに口づけた。
「んんっ、あ、継信」
「光映、抱かれたい?抱かれたいって言ったよね?おれに抱かれたいんだよね?」
昂奮した様子で言い募る継信の顔が紅潮していてかわいいと思った。かわいいと思った瞬間に、継信が自分の希望を確認して、喜んでいるのだということをようやく理解した。
「抱、かれ、たい‥」
「光映っ!」
露わになった光映の肌の上に、薄いシャツだけの継信の肌が重なる。シャツ越しでも継信の温度が伝わってくるような気がした。目が回りそうだ。自分は夢を見ているのだろうか、と光映は思った。こんな、デカくてごつい男を、今継信が組み敷いてくれている事実が信じられない。
「抱く、めっちゃ抱きたい、お、おれ、経験はないけど、色々調べたりしてるから!知識はあるから!‥って、ご、ごめんこれマジキモいよね、ああ、でも光映、光映好きだよ」
継信も混乱したようにそう言って、むちゅりと光映の胸に吸い付いた。乳暈ごと乳首を口に含まれてじゅうっと強く吸われると思わず背中が弓なりに反り返った。強い快楽が脳を沸騰させるようだ。
「ああ、あ!」
ちゅぶちゅぶと音を立てて舐めしゃぶり、乳頭を舌先でつつきながら愛撫されて光映は甘い声を上げた。すぐにその声の甘さに気づいて、羞恥にはっと口を塞ぐ。だが、継信は顔を起こして光映を見ながら、やんわりとその腕をどけさせた。
「声、聞きたい」
「ばっ、お前そんな無理」
「聞きたい、光映」
そう言って泣き笑いみたいな顔をして継信が言うから、光映は顔を赤くして黙り込むしかなかった。
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