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第33話 仲間との再会
杉浦はその背に金城、米田、馬場を引き連れて病室へと入ってきた。
「杉浦班長!」
思わぬ援護に、鷹也の心が軽くなる。
それに対し、医師たちはさっきまでの圧を引っ込めるどころか、及び腰になっていた。
「貴方たちは……? 面会を許可した覚えはありませんが」
「我々は榎本の同僚です。許可は受付の方からいただきましたよ。榎本が目を覚ましたとは聞いていませんでしたが」
杉浦は首から下げた面会許可証をひらりと指先で踊るように掴み、医師たちに提示した。
「質のいいガイディングは相互の信頼が不可欠。その点、私と榎本は約二年、一緒に仕事をしています。初対面であるタワーのガイドより適任ですよね」
にっこりと人の良い笑みを浮かべる金城だが、その目の奥は笑っていない。
視線は医師たちを鋭く刺している。
「タワーとはいえ、患者の意思を無視するんですか?」
「強引にガイディングをしてゾーンなってしまったら、責任は誰が取るんでしょうね?」
米田と馬場の追撃に、杉浦はくっと口角を吊り上げた。
「ああ……。そうなれば、我々の上司も黙ってはいないでしょう」
杉浦がわざとらしく肩を竦めてトドメを刺すと、医師たちは「ひぃい……!」と悲鳴を上げ、去り際に「ではよろしくお願いします」と言うや否や駆け足で病室から離れていく。
その後ろ姿をしっかりと見送った馬場は、顔を歪ませて中指を立てている。
相変わらず行儀が悪い。
「さて、邪魔者は消えた」
「悪役のセリフですよ、それ」
「いつか言ってみたかったんだ」
んべ、と舌を出す金城には、先程の凍るような雰囲気はない。
あるのは、暖かな春のような温もりだ。
「無事に帰ってきてくれて何よりだ」
杉浦がベッド越しに手を差し出してきた。
その温かい手を取ると、力強く引き寄せられ、ベッドに座らされた。
「本当、心配したんだからな」
座った鷹也の肩を軽く叩く金城の瞳には涙が光っている。
「あたしは静かで快適だったけどね」
「おいおい、ずっと落ち込んでたのは誰だ?」
「え⁉︎ 誰ですかね?」
くつくつと笑う米田につっこまれて戯ける馬場は、強がりを暴露されて赤面し、ふいと顔を逸らした。
「ご心配をおかけしました」
鷹也にはベフライエンに拉致されていた間の記憶がない。
それでも、仲間を心配させたのは事実だ。
深々と頭を下げると、上から苦笑が聞こえた。
「榎本のせいじゃないけど、そう言うなら復帰後は鈍った体を鍛えてやるよ」
「しょうがないからあたしも付き合ってあげる」
「完全にいじめにくるやつじゃねえっすか、それ!」
悪巧みをした米田と馬場は目配せをする。
鷹也が抗議するが、杉浦も意地の悪い笑みを浮かべるだけだった。
そうだ、鷹也はいつも何かと揶揄われる立場だ。
このやりとりがとても懐かしく感じる。
記憶がなくとも、鷹也が認知しないところで体は時間の経過を覚えているのだと、不思議に思った。
場が和んだところで、金城がこほんと咳払いした。
「おふざけはそれくらいにして、真面目な話な。榎本、拉致されていた記憶は?」
「すみません、さっぱりで……。こいつがいるから、プレゼニングしたんだなって思うくらいです。あと、医者からベフライエンに拘束されていたという話も聞きました」
鷹也は膝の上で大人しくしている鷹を見つめる。
今は、驚くほど落ち着いている。
やはり、タワーの職員が嫌だったようだ。
「そうだね。榎本がベフライエンに拘束されていた話は後で詳しく話そう」
ふぅん、と金城が相槌を打つと、彼はふっと息を吐いた。
すると、金城の隣に青白い影が現れた。
それは大型犬のシルエットを形作る。
「俺のスピリットアニマルはゴールデンレトリバー。それと……」
「俺はチーターだ」
金城のスピリットアニマルの隣に姿を現したのは、米田のスピリットアニマルであるチーターだ。
鷹也のスピリットアニマルは鷹也の膝から降りてベッドの端まで行くと、現れた二匹に挨拶するようにピッピッと鳴いている。
自然界では絶対に見ることができない光景に、鷹也の口角がじわじわと上がった。
それを見た金城も同じことを思っているようだ。
「榎本が復帰してからは三人で動く予定なんだけど、スピリットアニマルの相性も大丈夫そうだな」
「三人で?」
「バディを組んでる二人の中に新人を入れて、現場での動きを覚えさせる。それから改めて別のやつとバディを組ませる。たまにやってる教育手法だ」
米田がぐしゃぐしゃと鷹也の髪の毛を掻き回す。
そんなに不安な顔をしていただろうか。
いや、でもそう思うのも無理はないと思う。
「でも、いいんですか? 金城さんが俺のガイディングもするのは」
米田は、金城が自分以外のセンチネルにガイディングするのが気に食わない様子だった。
幾度となく、米田が不貞腐れるのを見てきた。
あの視線が自分に向くのは勘弁してほしいのだが……。
「榎本ならいいよ。可愛い後輩だからな」
鷹也の不安を払拭するには十分な言葉と笑顔。
米田は不機嫌の「ふ」の字も見せなかった。
それなら、と鷹也は強張った頬の筋肉を緩める。
「それで、まずは鷹也のガイディングなんだけど。記憶にある中で今回が初めてだろ。二人だけでやった方が良さそうだなと思うんだけど?」
「よくわからないので、金城さんのおすすめでお願いします」
「居酒屋か? まあいい。じゃあ、俺も二人の方が集中できるから、すみませんが杉浦班長たちは一旦退出してもらっていいですか?」
「構わない。あの医師たちが戻ってこないか、部屋の外で見張っている。終わったら呼んでくれ」
「了解です」
杉浦は快く頷いた。
米田はスピリットアニマルの顕現を解くと、馬場を連れて病室を後にした。
パタン、とドアが閉まる音。
異様に大きく聞こえたのは気のせいだろうか。
鷹也は首を傾げつつ金城に向き直る。
彼は、鷹也相手のガイディングは初めてだというのに、相変わらず緊張している様子はなかった。
さすが、歴戦のSAT隊員だ。
「ガイディングは身体接触が不可欠で、基本的には手を繋いでやっている」
「米田さんともそうしてますもんね」
「だね。それで、今回は鷹也のシールドの状態を確認したいから精神世界まで潜る。いい?」
「はい」
「じゃあ、手を」
差し出された金城の手。
尊敬し、信頼する彼の手に自分の手を重ねることに抵抗はない。
だが、ほんの少しだけ感じた違和感が、胸に正体不明の黒い霧を生む。
それを無視して、鷹也はそろりと手を預ける。
触れ合った金城の手は温かい。
「目を瞑って……息を吸って、吐いて……」
金城の声に従って体を動かす。
深呼吸するごとに、体の力が抜けていく。
「水の中に入っていくイメージ。スリーカウントのあと、ザブンッでいくよ」
「はい」
「三、二、一、ザブンッ」
鷹也は「一」で大きく息を吸い込み、水の中に潜った。
そして、目を開ける。
視界いっぱいに広がったのは、切り立った崖から見渡す緑豊かな自然だった。
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