3 / 4
第2話 とりあえず飯でも……?
一時間ほどで解放されて電車が動いた。その間に吐き気は止んだようだ。男がお礼をしたいと話したので一緒に電車を降りる。
「どこかで食べるところでもあればおごるんやけど、なさげやな」
男が再び電車に乗れる状態ではなかったのでとりあえず降りたけど、土地勘がない駅だった。見たところザ住宅街という駅周辺は家以外になにもない。
男がマップを開けて検索をかけている。すぐ歩き出したのでついて行った。
「何が好き? 酒は飲む?」
「俺、味音痴の偏食なんで、どこでもいいです。酒はいくらでも飲みます」
「味音痴の偏食やからどこでもいいって逆ちゃう? 酒か……、チェーンの居酒屋でもあればいいんやけど」
「別にコンビニ飯でもいいですよ」
「欲がないぁ。まぁ、でも天気も悪ないし、公園で酒盛りも楽しいかもな。明日は仕事?」
「休みです」
「おれも休みや。でも飲みすぎんようにな」
と男は言ったけど、コンビニも見渡せる場所にはない。男はマップをしまったけど迷いなく歩きだしたので一応どこか目的地はあるのだろう。
「家はどこなんですか? ここじゃないですよね。どうやって帰るんですか?」
成り行きで降りた駅だから、お互い目的地でない駅だ。あの酔いやすさで酒を飲んだ後、また電車に乗れるのだろうか。
「家は中野の方。電車で帰るしかないから、どっかで酔い止め買うしかないな。あのバイトは自転車で行ってて、今日は用事ができたから、時間なくて電車乗ったんやけど、酔い止めなくてな。普段はあんなへませんのやけど」
「用事って、もうあきらめたんですか? どこに行く予定だったんですか?」
用事があったのにこうして俺とご飯行く流れになっているのはおかしい。一時間の遅刻とはいえ延着で、非がないのに許されないとなると、友達と待ち合わせ等ではなく、イベント的なものだったんろうか。
「元相方が今日、大阪帰るねんて」
「元相方が大阪に帰る?」
よくわからなくておうむ返しになってしまった。
「そう。今日のバイト中に仲間から元相方が大阪に帰るから見送り来いって連絡来て、向かったけど間に合えへんかった」
「えっ、ほんとに間に合わないんですか?」
「さっき携帯見たらもう新幹線出たって。ええねん。喧嘩別れで会うつもりもなかったから。変に仲間内に煽られたからのったけど、もともと間に合うか間に合わんか賭けみたいな時間で、負けたってことや」
男は感情的ではなく、世間話のように話している。ただ疲れているようだった。バイト終わりで酔いも冷め切っていないのだから、本当に疲れているのだろうけど、住宅街のあたたかい光のおこぼれが背景になると、さらに男に寂寥が染みていくみたいだ。
「賭け弱そうですもんね」
「なんでか、よう言われるわ」
夜風が低い音をたてながら吹きこんで男が目を細めた。
ともだちにシェアしよう!

