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第2話 とりあえず飯でも……?(3)
「ねぇ、降りる場所色々あるんですけど、どこがいい? 梅田が多いけどなんばと、UFJもある」
「買い物するんやったら梅田やけどあんま知らんわ。観光ならなんばのほうが、食べ歩きとか、有名な看板とかカニとかにぎやかな感じしていいとは思うけど」
「ああ、あれってなんばなんですね」
行ったことはなくてもなんらかの媒介で見たことがある有名な場所だ。
知らない土地の情報が少しだけ明確になる。いつもはただの流れていく情報が少し立ち止まる。
男に携帯の画面を見せた。夜行バスの予約画面、今日の22時新宿発、梅田行。
「梅田やん」
「なんばは、もう高いやつしかなかったんです。今日発だともう便数ないみたい。この最安も残りわずかだし。いいじゃん梅田行ってなんば行きましょう。遠いんですか?」
「いやすぐ。電車で10分とかかなあ? 歩けなくもないはず」
男は聞かれるままにテンポよく答える。つられるように俺も聞く。
「大阪言ったら何食べます?」
「何食べますって、それ普通に観光やん。おれの目的を忘れてもうてるやん」
「あっ、そうか。相方の居場所、知ってます?」
「いや、まぁ」
男は歯切れが悪い。嘘はとっさにつけない人らしい。
「梅田か、なんばから近い?」
そういう隙をすぐに詰めた。
「そんな遠くはない。明日、新世界のなじみの飲み屋に行くらしいのは知ってる……」
男は眉間にしわを寄せ、しどろもどろに答える。
「いや、そもそもおれはそんなに会いたいわけじゃ」
「でも、賭けに出たってことは迷ってはいたんでしょ? 賭けって勝つまでやるのがセオリーなんですよ」
「破滅的すぎる」
男は戸惑っている。自分でも会いたいか会いたくなかったのか気持ちの整理はついていない、もしかしたら会えなかったから、それで整理をつけようとしていたところなのかもしれない。その雑然とした気持ちのところに、見知らぬ男が旅行に誘ってくるのだから展開についていけるわけがない。
男が戸惑っている間に、夜行バスのサイトの入力を打ち込んでいく。はずみで言ったのに、男がお人よしで不躾な年下に怒らないので、突拍子もない旅行が決まりそうになっていく。自分で言っていて戸惑いもあるのに、不思議なほど口も止まらなければ、手も止まらない。
「これ、俺の名前、同行者も名前いるみたいだから、ここに名前入力して」
再び、携帯の画面を見せた。自分の分は入力が済んだ。
「東 将俊(あずま まさとし)……くん。これめっちゃ個人情報やん。不用心な」
画面をのぞき込む男の顔が四角に光る。ふと見上げる空は黒い。夜が嫌いだ。夜勤のバイトを思い出して憂鬱になるからが主な理由だけど、夜に空が塗りつぶされると、今日は終わったから、始まる明日に備えろ、大多数の生物はそれに従っていると強要されている気がする。それがわずらわしい。
俺を見て男も空を見上げた。
「もう夜やな」
「そうですね」
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