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第4話 夜は内緒話の時間(2)

「自主的に休みました」 「修学旅行休むってすごいよな。おれほんまに物心なくて流されるまま生きてたから、修学旅行休むって発想なかったわ。修学旅行休むって結構な意思と物心がないと出来へんくない? 若いのにすごい自我ある」 「自我って、そんなに学生時代赤ちゃんのまますごしてたんですか」 「まさに赤ちゃんやで、ほぼ反射で生きてた。覚えてない旅行よりも、行かへんって決めて実行した方が価値あるで。行けへんかったら学校休みなん?」 「いや、何らかの都合で行かない人は学校に普通に登校しますよ。自主学習みたいな」 「めっちゃひまやん」 「ほんとそう。中学も高校も俺のクラスは俺しかいなかったから。プリントして、寝て、たまに暇な先生が話にきてくれるんですけど、そんときは親戚みたいに話してくるから面白かったかも。高校の時は隣のクラスの女子も休んでて休み時間に話したりしました」 ゆるくビールの缶を揺らすと水が跳ねる音がする。  学校はつまらないことばかりだったと思ってたけど、こうして思い出せはするのでつまらないなりに日々とっかかりがあったということなのだろうか。 「へぇー、なんかロマンスになった?」 「いや、別に。その子になんで休んだのって聞いたら、四日も五日も外を出歩いて焼けたくないってすげぇ陽気に答えられて。終わった後、楽しそうに友達と話してるの見て、同じ休みでもこんなに次元が違うことってあるんだなって」 「日焼けか。確かにそんな発想ないな。東はなんで休んだん?」 「もともと学校向いてなくて半不登校だったんです。だから、旅行なんて絶対無理だなって。親も教師も俺が行かないって言っても誰もとめなかった」  隣のクラスの女子を思い出したのはいつぶりだろう。おもいだすままにぽろぽろと自分語りなんてダサいのに、きままに話してしまったのは、旅行への高揚感と、相手が赤の他人だからだろうか。  当時はサボりだとか軟弱だとかそういう風にいう教師がいた。今もあまりかわらない。遅刻は夜に働くことになってから少なくなったが、人より働いている時間は少ない。病弱ではないが、人より体力がなく、神経系も弱いのだろう。当時も旅行に行く気力がなかった。行かない選択なんてかっこいい理由はない。本当にかっこいい自我を持っているのは隣のクラスの女子だ。  急にエンジン音がしなくなって、さっきまでエンジン音がうるさかったんだなと気づいた。何人かの人たちがバスに乗り込んでくる。 「夜行バスって行って帰って0泊1日やねん。それやったら旅行もいけそう?」  俺が煙に巻くように誘った旅行なのに星一さんの方が俺に伺いを立てている。 「行けると思います」 「よかった。うきうきやな」 「うきうき……」 産まれてから初めて使った表現だ。 「そやで、明日は楽しもう。はよ寝よ。もう寝る時間や」 「こんな環境で眠れるのかなと思ったけど、今、すごい眠い」 「疲れてるんやで。バイトの後に酔った人間の世話して、そっから移動して」  バスが動き出す。すぐに消灯を告げるアナウンスが聞こえた。 「じゃ、おやすみ」  がたがたとバスが揺れる。時折あたる足を感じながらいつの間にか眠ってしまった。

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