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第5話 旅行が始まるよ
ふと目が覚めると車内で眉をよせた。そうだ、夜行バスだ。眠った時よりも遮光カーテンの合間から抜けた明かりで明るい。何度かトイレ休憩があったはずだけど、起きなかった。こんなに寝たのは久しぶりだ。こうして早朝に目覚めるのも。
横を見ると星一さんが寝ている。静かな寝息をたてている。第一印象は酔っていてかわいそうな人、いや、その前にバイトでこけていたのが実際の第一印象で、それもどんくさくてかわいそうな人だった。実際は売れてない芸人で、解散したばかりでやっぱりかわいそうな人だったのに健やかな人だという印象なのはこの人の気質からくるのだろうか。
到着を告げるアナウンスが鳴ると星一さんが起きた。
「おはよう」
「おはようございます」
朝の挨拶なんてもしかしたら初めてしたかもしれない。
「めっちゃ晴れとるな」
外に出ると光を感じた。電車を降りて見えた景色は知らない場所だ。ただ日本の都会なので目覚ましい違いは感じなかった。
「寝れた?」
「なんかすげぇ寝ました。いつもより寝てるぐらい」
「よかったやん」
星一さんは笑顔で大げさに拍手してくれた。あらためて今まで邂逅したことのない人種だ。
「夜行バス久しぶりやったけど、おれも寝れたわ。どこでも寝れるから、あんま心配してなかったけど」
「そんなイメージです」
「やろ、どこでも寝れて好き嫌いなくて、健康だけが取り柄やから」
「酔うけど?」
「そう、酔うし冷え性やけど」
「冷え性、似合わな」
「いやいや、冷え性に似合う似合わないとかないから」
朝にぼやけた頭でテンポだけで返事している。
星一さんが歩き出したのでその横をついていく。
「朝飯何食べたい? というか朝食べる派? 食べへんかってもおれはお腹空いたから、ファミレスか満喫でもいいからなんか食べたいんやけど」
「なんでもいいです。朝は食べたり食べなかったり」
基本的には夜勤バイトで、たまに昼勤のバイトに行って、夕方からスタジオを借りたりで、日々のスケジュールが決まっていない。寝れるときに寝て、お腹がすいたら食べて、予定がなければ酒でルーティーンがない。
「なんも決まらんやん。東の旅行やねんから、マジでしたいことないん?」
「むずかしい質問ですね」
したいことというのがない。したくないことはたくさんあるから、したくないことを避けて生きてきた。
ビル群を抜けると高架が見えた。少し視界が広がっても変わらずビルが多く並んでいる。梅田はショッピング街と聞いていたが、まだ早朝なので活気はなく町全体が寝ぼけている。星一さんはプランがないと言いながら、迷いなく歩き同乗者の人たちと同じ方向に向かっているから、おそらく駅に向かっているのだろうと算段していた。
視界に真っ赤な観覧車があった。
駅前の白いビル群の中の赤い観覧車は浮いている。もしかしたらテーマパークがある方向で、駅ではないのか、でもそんな敷地、密集しているビルの中に場所はあるだろうか。
「これってどこに向かってます?」
「駅やな、駅ゆうても駅めっちゃあるけど」
前の三人の同乗者が観覧車とは逆方向の建物の出入り口に入る。そこには梅田駅の文字があった。
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