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第6話 最初は裸のつきあい

 観覧車から離れて歩き出した。都市はまだ目覚めておらず、徒歩の人は少ない。 「今日めっちゃ歩くプランでもいける?」 「あのバイト行くぐらいなんだから大丈夫です。靴もちゃんとスニーカーだし」  お互いお金がない貧乏旅行だ。星一さんの爆弾的にも移動手段は徒歩になった。 「とりあえず近くの風呂行くけど、梅田の観光はスルーで。おれミナミしか知らんから、梅田はようわからん。梅田は地下も地上も道が多くて意味わからんとこにつながる。知らん奴が知らん奴連れて歩くのはむりやから、戦略的逃亡やな」 かっこ悪いことをかっこいいことみたいに星一さんは言っている。最初は梅田も代表的な観光地ということで観光を考えていたみたいだけど、のんびり旅行に方向を決めて捨てたようだ。  サプライズのほうが楽しいやろ、と行先はつげられることなかったので横をついて歩いた。ちらほらいる通勤バックを持つ人たちを横目に歩く。普段なら夜勤のコンビニバイト終わりで見るそれは多数者になれなかった自分がちらついて心が沈む。でも今日の俺は酔っ払いの旅行者だから、その多数者になれなかった背徳も陽気なBGMだ。  徒歩ですぐに風呂に着いた。風呂といってもカプセルホテルの大浴場だけど、広くてきれいだ。早朝ということもあってか利用する人は少ない。 「受付の人、シークワーサーに似てへんかった?」 「まったく」 「なんか顔がいかつくて犬っぽかったやろ」 「それシーサーですよ。シークワーサーは緑の柑橘です」 「まじで。同じ沖縄で似た言葉すぎへん? 罠やん」  どうでもいい話が始まっては終わって、また始まってと、とぎれながらも続くので、結果的に仲良く並んで体を洗い、風呂にも並んでつかる。 「風呂つかるの久しぶりやわ」 「俺も基本シャワーです」 「一人暮らしやとそうなるよな。ひさしぶりの風呂が広々の朝風呂ってリッチ」  水の音がパシャパシャと跳ねている。横で星一さんはお湯で顔を洗っている。 「そうですね」 「ぼんやりしてるな。初旅行やで? しょっぱなカプセルホテルの風呂で残念?」 「初旅行だから、不思議な気分でぼーっとしてるだけです。旅行気分は充分味わってます」  熱いお湯が全身の皮膚にまとわりついている。膨張したような音と、水の中の独特の重力と浮遊を感じながら、目の前では裸の男がうろうろしている。久しぶりだと銭湯で感じる五感は特殊だ。もう旅行が始まっているのは身に染みている。 「ほんまに旅行したいだけやねんな。なんでそんな旅行したかったん?」 「したことなかったから以外の理由はないです。みんなマウントとってくるから一回はしとかないととか。今、ちょうど暇だし、なんもいいことないから、ぱーっと、どっか行きたいなって」 「おれも最近いいことないからわかるわ」 「近々で新幹線間に合ってないし、酔って吐いてますしね。解散したって言ってたけど、今はお笑いもできてないんですか?」 「そうやな。解散したのが先週とかで、お笑いをやめるつもりはないけど、具体的にはなんも決まってない」 星一さんは首を大きくそらし左右に揺らして柔軟する。ネガティブなことを言っても態度にはでない。 「解散しても、お笑いはやめないんですね」 「お笑い好きやしな。裏切られてばっかりやけども、やめられへん。東はもしバンド休みってなったらやめる?」 「まさに俺バンド休みなんですよ」  ここのところバンドの雰囲気が良くなかった。それでもだましだましやっていたのが先週しばらく休むという宣言がボーカルの佐野さんによってなされた。

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