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第8話 幸先の悪いスタート?(3)

 朝食を食べている間に時間が過ぎて、さっきまではだれもいなかった公園を犬が散歩していたり、ジャージでストレッチしている人がいる。急に怒って気まずい思いをしてるのは俺だけだと思ったのに、ずっとおしゃべりだった星一さんもなぜか目線を下げている。 「なんか、しずかじゃん」 「えっ、ああ、なんか、なにも今、財布忘れんでもって思って反省中」 さっきまでは悠然とした態度だったけど、今更反省しているらしい。 「こういういつもと違う時だからこそ忘れたんだろ。旅ってトラブルが付きものっていうし、むしろ旅行っぽい」 「そう言ってもらえるとありがたいけど」 「とういか、いくら財布なくすのが初めてじゃないにしても、旅先で財布ないの不安にならないの? いくら知らない人間でもそういうときは頼った方がいいよ」 「おっしゃるとおりで」  もしかしたら、この人は思ってるより不器用なのかもしれない。 「東にはこれから積極的に迷惑かけて頼っていくわ」 「そこまでは言ってないけど。他人を慮るのっていい風に聞こえるけど、すげぇ壁あるよ。良い人どまりでモテないの典型」 「うっ」 と言って星一さんは胸を押さえた。 「あっ、図星」 「図星かはわからんけど、モテたことないな。そもそも童貞やしな、おれ」 星一さんはずっと流ちょうに話してたのに、失速して勢いがなくなった。 「えっ、童貞? お笑い芸人ってめっちゃ遊んでるイメージだった」 「そういうやつももちろんおるけど。おれはちゃう」 「それはわかる」 「おまえ、怒ってたんちゃうんか」 「別に、なんか急に距離とられたから、イラついたけど、冷静になったら、相手おっさんだなって落ち着いた」  嘘だ。落ち着いてなんていない。人との付き合いは性別も年齢もフラットで関係ない。関係なく平等にどうでもいい。どうでもいいから誰とだって寝るし、それ以外の理由では近づかない。だから置いていかれることに感じた不安や怒りが未知で燻ぶったままある。 「おっさんってみたらわかるやろ、最初から怒るなや」 「婚活とか三回ぐらいのデートで付き合うか決めるんだって。もう俺たち、夜ご飯食べて寝て風呂行って朝ごはん食べたんだから、三回分のデートなら等分じゃない? おまけにこの後、昼夜食って一緒に寝るんだから、見込み的には付き合ってるといっても過言じゃなくない? なのに知らない人っていわれたんだよ? 冷たすぎない?」  いつのまにか敬語が外れている。なれなれしくてうらみったらしい自分の言葉がうっとおしくてきもちわるい。どうしたいかがわからないままに、拒絶されないか露骨にためすような言葉を吐いている。今日の俺はもはや辟易とするような口の軽さで、自制を何処かに投げ出してしまっている。 「ごめんって。過言過ぎて、理屈はなんもわからんけど。なんやおまえかわいいな」  星一さんは笑った。適当なかわいいだ。きっと言ったことなんてすぐに忘れてしまうかわいい。 「かわいいとか初めて言われた。目腐ってますね」  旅行をするなら知らない人がいい。どんなぼろが出ても旅行先に全部おいていけるから。この人ももしかしたら同じような思いなのかもしれない。明日になったら関係ない人だから、整理がつかないきもちのままで相方に会いに行くという選択を選べた。この旅行は帰ってしまえば相方もろとも修学旅行のように忘れてしまうかもしれない。でも、俺はこのかわいいを死ぬ間際まで覚えてる。

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