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第9話 二人で歩こう(2)
だらだらと歩いていると鉄道とそれに直結した建物が見えた。
「こっちいこ」
まっすぐ歩いてきた道をまがって先導されるままに付いていく。鉄道を超えるとビジネス街は終わりというように商店街があった。一つ目と二つ目の商店街とはまた違った雰囲気だ。
「ここは本町やねんけど、ここまっすぐ行ったら、心斎橋でなんば。道頓堀があるからそこで昼食べよ。心斎橋とか難波は人多くて観光地って感じやから入りたい店あったら言ってな。金なくても積極的に冷かしていこ」
「迷惑なやつ」
「店の人もばりばりの観光地でそんなやついっぱいおるから気にしてないわ。なんば周辺は、千日前に道具屋筋とか、アメ村も日本橋もあるけど」
「全然しらない」
「やろうな。適当に歩くわ」
とても騒がしい商店街だった。チェーンのカフェと古めかしい本屋と道にせり出した鮮やかな安い服の店が雑多で大阪を感じる。もう店は開いているけど人通りが地元の人間感が強いのでまだこの辺りは観光地ど真ん中ではないようだ。
「このあたりは昔きた?」
「たまーにやな。こっちまではあんまり来おへん」
「いきつけが新世界って言ってたから、そっちがホームだったり?」
「いや新世界がいきつけなんは相方や。おれはひきこもりやし、あんま出歩けへん。でも養成所が難波やからな、心斎橋ぐらいまではよう行ったけど」
よく知った場所が近いからだろうか、イントネーションに関西弁がさっきよりもよく出ている感じがする。
「子供のころからずっと大阪?」
「大阪やで。でも生まれはもっと田舎のほぼ和歌山やな。だから、子どもの時はミナミとかもよっぽどのことやないと来おへんかった。大阪生まれやけど、グリコもかに道楽も中学生とかで始めて見たからけっこう感動したで」
「どんな学生だったの?」
「いや、あんま覚えてなくて」
「でも、グリコもかに道楽も感動したんでしょ」
「ほんまやな、そうやわ、思い出したわ」
「思い出せるかもよ」
「な」
といっても思い出そうとすることなく、かに道楽やグリコに他の有名なモニュメントの話をしだした。
たくさんの店が並んでいろんな人が通る。人が多くなってきた。大きな道路を超えて続きの商店街に入ると百貨店があって都会の色が格段に上がった。派手な店とおしゃれな店で商店街というよりも、観光地といった印象に変わる。歩く人たちも近所の人ではなく遠出の装いの人がほとんどをしめている。
明らかに外国人が増えていて、露出が多いのは近隣のアジア人だろうか、頭にターバンを巻いた人もたくさんみかけ、すべての肌の色がそろっている。東京も観光中の外国人をよく見るけど、観光地が狭いからかより外国人の密度が高い。
「半分以上観光じゃない?」
「ほんまやな。昔も観光の人はおったとは思うけど、ここまで他国籍じゃなかったような気がする。めちゃ人多いし、土日じゃなくてよかったな」星一さんはきょろきょろと見まわして地元のはずなのにおのぼりのようだ。「久しぶりに来たらめっちゃ店かわってるわ。知らん店ばっかりや」
「そんな変わった?」
「いや、うそついた。どんな店あったんかほんとはほとんど覚えてない。レディースの服屋が変わっててもわからん。というか、ここらへんに同期がバイトしてたパチンコ屋があったはずやけど、それすらももうどこか覚えてない。記憶力がやばい」
「物心あるのに?」
「ただたんに記憶力悪い説あるわ」
星一さんはあの食べ物映えそうとか、今のカップル身長差やばいなんて、そんなどうでもいいことを次から次と話して忙しそうだ。一瞬一瞬が忙しくて過去を振り返ることがもったいないとでもいうように。
「星一さん、今日のこともすぐ忘れそうですね」
「さすがに、覚えてるわ」
星一さんは軽く返事をする。
本当に覚えてくれるだろうか、うたがわしい。俺はきっと死ぬまで覚えている。そんなわけが分からない確信をもっているのに、不平等だ。
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