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第9話 二人で歩こう(3)
星一さんがそっと俺との距離を詰めた。対向の人間が多いから寄っただけだけど、肩が当たったり当たらなかったりしている。
「すごいあたってる」
「ごめん。おれ自分の車幅わかってないからめっちゃ物にあたるねん。ゆるして」
星一さんはどーんといってふざけて肩をぶつけてきた。ふざけてるだけとわかっているけども、肩も一緒にあたる腕の硬さも布地をとおして俺につたえてくる。星一さんは日中バイトが自転車で宅配だからか無駄に体がととのっている。
「もしかして、それって俺への性的なアピールでした?」
「えっ」
前からツアー客の一団が来た。気づかずにうもれたら困るので、腕をもって引いた。
「うわ、ごめん」
ひいた腕をそのまま離さず歩く。
「俺、東京出てからとっかえひっかえすげぇ遊んでて」
「何の自慢?」
星一さんは離されない腕を不審な顔で見ながらも、会話をひきとってくれる。
「誘われるままに答えたし。こっちからも誘った。男も女も。さっきイエローくらったって言ったの、枕で有名だった男を誘って寝たからなんですよ」
「はぁ」
星一さんはいまいち要件をつかめていないようだけど、返事をしているからちゃんと聞いているということだ。男ということで記憶に残るような衝撃をあたえられないかと思ったけど、星一さんのリアクションがあまりにも力がなくて効果があったのかどうかわからない。
「星一さんも俺に狙われるから、アピールしないでくださいね」
そう言って人差し指でひじの裏を撫でた。
「うわっ」
無駄に大きい声量で星一さんは驚きの声をあげたので周りの人がちらちらとこちらを見てる。しまったとあからさまな顔をする星一さんの腕を笑いながら離した。
「えっ、なに? うぶなおれをからかった?」
「おっさんのうぶやばいです」
「おれも言ってて、さぶいぼたった」
星一さんは腕をさすっている。さぶいぼってどんなの? と言って服をめくって触れてしまおうか。細いけど筋肉がついてる皮膚に。
星一さんがふいに俺と目を合わせた。
「なぁ、さっきの枕ってほんま?」
「興味あるんですか? 特に優遇されるとかなかったんで止めた方がいいと思いますよ」
「せぇへんわ。違う。東が枕して、それで得してもなさそうやし、イエロー食らったって、ふんだりけったりすぎへんか」
「心配してもらってありがたいですけど、俺あいてが枕で有名とか知らなくて単に遊んだだけなんで。もともと乱れてるって注意されてたのに、そんな相手と自分から遊びに行くなって怒られたんで、自分で蒔いた種ですよ」
イベントの終わり、あまり演奏がうまくいかず、むしゃくしゃしていた。誰でもいいから寝たかった。そんな時の流れで寝た。枕なんてしたつもりはなかったけど、釈明の余地はない。
「そもそも俺、男なんでセックスで傷つくとかないし」
「男とか関係なく知らん奴とは普通にキモイやろ。でも心配して損した。まともな人がいてよかったな」
「それは本当にそう。なぜかクズばっかりのバンドにも良心が一人はいるんだよね。いないところは解散するんだけど」
相変わらず商店街は華やかで人が多い。星一さんは離れることなく、すぐ横を並んで歩いてる。
「俺、男とも寝るけど、貞操の危機だってひかない?」
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