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第9話 二人で歩こう(4)

「節操のなさにはめっちゃひいてるけど。普通にそんなんまわりにもおるし、百戦錬磨の若いイケメンにおれみたいなおっさんが狙われてるなんて思わんわ」 あえて露悪的にきいてみたけど、星一さんは変わらない態度だ。自分が対象になる可能性をみじんにもかんじてないようだった。 「別にイケメンってほど顔面偏差値高くないけど。悪役顔って言われるし」 「確かに恋愛ドラマとかよりは映画で笑って人射す役とかやってそう」  対抗の一団とすれ違って星一さんの手と手があたる。それは自然にあたって離れる。  確かに男もいけるけど、女の子の方が好きだ。自分の根本はヘテロだと思うけど、たまに無性に男と寝たくなる。決まってむしゃくしゃしてるとき、何かがうまくいっていない時だった。この旅行は旅行が目的だったけど、この男と寝ることはよぎっていた。酒もセックスも快楽を得られたらどんなものでもよかった。星一さんは寝る相手として問題ない。 「星一さんは社員Aって感じ」 「わかる。でも六十ぐらいになったらドラマとかで名バイプレーヤーになってるから、とか、そうなれるぐらい有名になれたらいいな~」  のんきに星一さんはあくびをしている。 「あっ、道頓堀や」  商店街が途切れて歩行者の圧で狭まったような一通の道路を超えると橋があった。また川だなと思って顔をあげると、見たことのある手を挙げてゴールテープを切る人の看板があった。 「見たことある」 多くの人がその前で写真を撮っている。 「テレビで見たことがあるって、すごいってなれへん? 現実からとびだしてきたっていう」 「わかるかも」  旅行にいけるならどこでもよかった。どうせどこに行っても同じだと思っていたけども。 「旅行って感じ、なんか非現実」 「それが旅行やろ。養成所通ってた頃は毎日のように見てたけど、久しぶりに来たしおれも今日は旅行って感じするわ。ほら、あれ、観覧車」 「えっ。あれ、ほんとだ、観覧車」 有名な激安の店はさっきから見えていたけども、言われてその店が観覧車に埋もれていることに気づいた。 「ほら、東が観覧車好きなのおぼえてたやろ?」 今日の朝のことをまだ覚えてると威張られても困る。それに、俺は別に観覧車が好きなわけじゃないし、好きとも言ってもない。 「おなか、へったな。粉もん食べよ」 次から次へと星一さんの足取りは軽い。 「楽しそうですね」 「いや、楽しんでいこ。旅行やで」 ぱっと笑いかけられた。星一さんはただ無邪気に俺のためにこの旅行を楽しもうとしてくれている。  ふいに泣きそうになった。この人が好きだ。 「星一さんってほんと良い人ですね」 「財布なくしたの挽回したいんやって、言わせんといて。昼はまじでおごるから、いっぱい食べて!」  強くて元気な語尾が、かしましい背景とマッチしている。  こんなつじつま合わせの旅行どうでもよかったのに。  ホテルに誘ってしまおうか。知らない男にさわられるのはキモいといった星一さんをべたべたと隅々まで触って、無理矢理に童貞を奪う。童貞を奪ったらさすがに忘れないだろうし、そのまま嫌われてしまえば、この好きという未練になりそうな感情もきっとなくなる。

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