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第10話 道頓堀は思い出の地
道頓堀と案内された商店街は飲食店が多く軒を連ねていた。有名な動くかにの人形を筆頭に、大きく派手で立体的な看板が並び、けばけばしい通りだった。
「たこ焼き屋がいっぱいあるから、どれか食べよ。どこにしよか」
「どこがおいしいんですか?」
「さぁ? おれも久しぶりやからな、あそこは昔からあるけど、さっきの店の方が並んでるな」
商店街のど真ん中で立ち食いしている人がちらほらいる。聞こえてくる会話が日本語ではない。
お腹が空いていたこともあってたこ焼き屋を三軒回って分け合って食べた。店ごとに味付けを変えたので優劣はわからないが、どれもうまい。おいしいよりうまいというテイストの味だ。
「ほかなんか食たべたいもんある?」
「いや、お腹いっぱい」
「じゃあ、適当に歩こうか」
この辺りの道はくわしいのか、星一さんは自由に歩いた。服屋はたくさん、インバウンド向けのお店もたくさん。どこで曲がっても飲食店があって、やたらレトロな通りや、いきなり神社があったり。チェーン店と激安居酒屋と、おしゃれな店とが混在している。星一さんがたまに持ち帰りで、カップや串を買うので分けてもらいながら、たくさんの店を冷かし歩いた。どこいても原色の陽気な看板が見えてここは日常ではないことをつねに教えてくれている。
いくつかの商店街を縦横無尽に移動して抜けると、二人組のイラストが何枚も並ぶ看板を有した建物があった。屋根の下で小さい店が並ぶ商店街を歩いてきたので、いきなりあらわれた空の下で大きな建物はここだけ特別感があった。
「ここはわが社の劇場」
「こんな都会ど真ん中にあるんだ。ここは出たことがある?」
呼び込みをしている人の後ろにある日程の部分にはお笑いに疎い俺でも知っている芸人の名前を複数みかけた。
「ここはほんまに実力ないと出られへん。近くにもう一個劇場があってそこは出たことあるけど」
「いつかは出たい?」
「ここは大阪やし漫才が主やからな、おれコントやし、それはそんなに思わんけど」
星一さんはたちどまることなく劇場を通り過ぎる。
「漫才とコントって違う?」
「簡単にいうと漫才は真ん中にマイクおいて二人の掛け合いだけで人を笑わすやつ。コントはドラマのワンシーンみたいに舞台装置と役があって芝居の中で笑わせる」
「へぇ」
なんとなくわかった気もする。
「どっちもはつくれないんだ。そんな作り方がちがう?」
「最近はどっちにも転用できるみたいなネタも見るけどな。持論では漫才は人がある方が強い。おれも最初は漫才してたけど自分に人がないから、むかんかった」
「よくわからないわ」
「漫才はその人の個性がそもそもおもろないとあかんねん。個性をぐつぐつ煮て濃くしてやばくなったもんを、食べらられるように調理して提供する。だから漫才でうけるって、その人そのものが面白いスターやねん」会話は適当だけどキャッチボールを大切にする星一さんが早口に語っている。「それはだから、その人そのものが水じゃあかんってこと、水は煮たらなくなるだけ。おれは水でどうしようもなかった。それはそうや。こんな忘れっぽくて、空想ばっかりの人間面白みなんてないもんな。で、漫才はあきらめた」
「コントは違うの?」
「コントは自分が面白なくてもいい。面白い設定を作って、人間を作って、演出すればいいからな」
劇場を通り過ぎても余熱のように、関連のお菓子やグッズが売っている。
星一さんに個性がないことはないと思うけど、まだ知り合って間もない俺が口をはさめなかった。良いことをいえる気もしない。
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