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第10話 道頓堀は思い出の地(3)
「さっきの米俵の米沢さん。知ってる?」
男が見えなくなると星一さんは姿勢をくずした。
「知らない。あんまお笑い見ないから。先輩?」
「そう。一個上」
ずいぶん偉そうだったけどたかが一個上だったみたいだ。
「すげぇ、えらそうだし、なんか棘あったけど」
「相方と漫才で組みたかったらしいんやけど、相方がおれと組んで、解散でやめたから」
「そんなに相方面白かったの?」
「面白いと言いうか、スター性があるっていうか、クラスでずっと目立ってきたんやろうなっていう感じ」
「個性があった?」
「そうなんやろな。でもおれがいかしきれへんかった。米沢さんは東京行ってコントに鞍替えしたのもカンにさわったみたい。相方は漫才の方が輝けるって最後まで言ってたしな」
好奇心を抑えきれず携帯で星一さんの名前を入れてみた。本名で活動しているらしくすぐに出てきた。お笑い系のトピックスで解散の文字がひっかかる。
「えっ、結構有名だった?」
「米俵?」
「だれそれ。違う、星一さん」
動画投稿サイトでいくつか動画が流れてくる。地上波らしきものだ。
「二、三年前はちょっと出ててん。その頃は劇場も出番多かったし、一瞬バイトもやめれてんけど」
画面のなかで二人はハードボイルドな設定なのか、チンピラの服装をしていた。相方らしき人は大きな体と大きな目で陽気な顔をしている。派手に転んでいる姿はアニメ的と言うか華があるというのがわかる。
「これがコント? 東京来てコントでテレビ出れたんなら成功じゃん。星一さんが悪いみたいに言ってたけど、さっきの人、自分が選ばれなかったからって、怒るの筋違いでしょ」
「テレビいうてもちょっとで、関西では流れてへんしな。それに結局は解散したから」
「そもそも相方の責任もあるじゃん」
「そうやね。相方もおれも漫才したかったけど、パッとせぇへんくて、試しに作ったコントでうけて、だからしたかった漫才よりうけたコントを選んだ。それで大阪は漫才が強いから東京に行くことにした。全部二人で同じ気持ちやったとおれは思ってたけど、ネタつくってるおれが強行したって周りは思ったみたい。実際、おれの主導って相方も言ってまわったみたいやし」
「そんなの」
「ぜんぶおれが言い出したのはほんまや。あいつはおれを信じて預けてくれたと思ってた。やけど、それってネタを書かないからって不本意な同意やったかもしれへん」
「じゃあ、ネタかけばいいじゃん」
「そやけどな。それでイラつくこともあったけど、おれも一人じゃお笑いできへん。おれにつき合ってるって相手が考えることもあるっておれは思いつかんかった」
星一さんは感情的になることなく淡々と話す。
「それがだめになった理由?」
「コントも東京もタレント業もあわんくて、なにも魅力がないから続けるのは無理って本人は言ってたけど」
続けるのは無理って言葉は突き刺さる。好きでもない金にもならないのに続けるというのはただの苦行だ。
「おれはコントしたらコントの楽しさもわかった。空想好きなところも相性が良かったんやと思う。ネタを作るのはたのしいし、東京はコントでも若手の劇場多いから出やすいし、上下関係の空気感もこっちの方が肌に合った。あいつの気持ちは全然わからんかった」
星一さんは携帯をカバンに入れた。
「そろそろ新世界に向かおうか」
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