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第13話 新世界はカオス(3)

「いいな、俺もそれぐらいの熱量で覚えててほしい」 「熱量とかわからんけど、忘れへんって。ていうか、なんで今日が最後に会う前提やねん」  もう陽は完全に落ちていて、電灯の明かりだけが頼りだ。今日はもう終わる。 「だって旅行は終わりじゃん。もう俺が逃げる場所なんてないんだから」  星一さんとの旅行が終わる。〇泊一日の現実逃避が終わってしまう。明日からは日常だ。星一さんはきっと地道に働きながら誠実にお笑いを続けていくんだろう。俺はそうなれない。 「俺、ぜんぜん弾けてないんだ。休む前からずっと調子悪くて、だから余計に快楽に逃げてた。倒れてからは逃げ場もなくて、朦朧としてた。昨日、佐野さんから連絡あったけど無視してる。解散かもしんない。解散は今までもあったけど、俺は弾けてたから、次に行けばいいし問題なかった。でも弾けなくて解散したら終わりだ」  昨日バイト終わりで話がしたいとメッセージが入っていた。その一言だけみたメッセージは横に飛ばして、そこからはなるべく携帯を見ないようにしていた。星一さんが旅のアテンドをしてくれるから、知らない土地への旅行でも携帯を見なくても困らなかった。 「明日って来るらしいよね。なんでだろ」  不安がせりあがる。こんなにも感傷的になるのは、初めての旅行が終わるからだろうか。今日がどうしようもなく楽しかった。だから、余計に。旅行には行きたかった。名目だけでよかったのにこんなに楽しいなんて聞いてなかった。  規則正しく明日が始まってしまう。音楽は弾けない。自分はだから壊れかけた体と頭で酒とセックスを再開するんだろう。今日から逃げないと明日に行けないから。でも逃げたとて、そんな逃げ方では自分はいつか明日に行けなくなる。  一通の狭い道を車が走ってくる。脇に寄ったけどあおるように前を過ぎ去った車はあきらかにスピード違反だった。このあたりは治安が良くないとさっき話していた。 「なんか疲れてるな? ここはよくないし、ちょっと移動して休憩しよ」 星一さんは俺の肩をたたく。その手をとった。 「そこ、はいろ」 つながった反対側の手で、三軒先の建物をさした。古びた看板には高級感が逆に安っぽくみえる書体でHOTELの文字が書かれていた。 「ラブホやん」 「風呂も飯もベッドもあるから、ちょうどいい」  こんな雑な誘いでも勝算がある。俺は今日ずっとわがままで癇癪だっておこしてるのに、許してくれていて、この人が面倒見のいい人だということは知りすぎるぐらい知っていた。 「確かにそうかもしれんけど。男同士ってはいれんの?」 「入って止められなければ」 「じゃぁ、まぁ、休憩しよか」

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