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第15話 夜は内緒話の時間、二日目

「どこにも……。珍しいから、ただ、なんとなく歩いてただけで、ただの野次馬だ」  昨日の記憶が新鮮にフラッシュバックする。  人身事故の電車、前に向かって歩いていた。グロテスクなものを見る趣味はない。なのに、見たかったのだ、どうしても。 「東さ、昨日、電車の固い扉をまっすぐ前見て無感情で開けてた。人殺しそうな顔してたで」 「そんなに悪人顔じゃない」 「悪人ではないけど、人を殺しそうな顔やった。自分を殺すか悩んでる人やって」  視線が露骨に合って、そらした。見抜かれていたのだ、自暴自棄を、どうしようもなく逃げ場所を探していた自分を。  昨日、電車の前に向かって歩いていく途中で星一さんを見つけた。  バイト帰りだった。倒れる前はスタジオに行く前に入れていた日雇いのバイトだった。昨日はスタジオの予定はなかったけど、お金もないし、なにより暇になるのが嫌だった。バイトを終えて、電車に乗った時、佐野さんから連絡が入った。見ないといけない。でも、解散っていわれたら、解散せずとも、俺は弾けない。どっちの現実も受け入れたくない。逃げたい。逃げないと。逃げ道としてあった酒もセックスもここで再開したらこれまでよりもずっと依存するだろう。良い未来には向かわないことはわかりきっている。じゃあ、どこに逃げたらいいんだろ。逃げた先にいいことなんて一つもなかったけど。  電車が揺れて、よろめいた。  人身事故のアナウンスがなった。  気が付いたら歩いていた。逃げる先がある、天啓のように頭に落ちた。どうしても事故現場を見たかった。事故現場を悲惨なものとしてみるのか、救いとしてみるのか。不謹慎きまわりなくて周りの人から非難の目を向けられても、自分が近い将来の選択するかもしれない景色をみたかった。  もうそこにしか逃げ道はない、そんなことは思いたくない、でも足が止まらない。 「殺そうなんて思ってない」 なんの誰のための誰に対する言い訳なんだろう。頭がよく働かない。 「旅行って恥はかき捨てやから、なにしゃべってもいいんやで」  星一さんは俺の手首を握りなおす。風呂から出た体温はまだどちらも温かくて、手首が、脈が温かい。 「おれ、高校の時に人身事故にあってん。それで同じように前に向かって歩いてた。ほとんど空気みたいな存在やったから、空気になっても同じやろって。自分の未来の選択肢を見ようって。おれはその後お笑いと出会って、自分が空気でも自然に死ぬまでの暇はつぶせるって知ったから、ラッキーやった」  星一さんはゆるく笑う。盛り上げるための笑い声をあげるような笑い方じゃない。俺を安心させるように。 「意外となんとかなる。東には音楽があるんやろ」

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