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第15話 夜は内緒話の時間、二日目(4)
星一さんが急に立ちあがった。すぐ前にいたから立たれると至近距離になる。
「俺から逃げようとしたな。でも逃げるのが下手すぎるわ」
距離がとてつもなく近いと驚く間もなく、俺を抱きしめた。
「なに、やめ、」
びっくりして拒否できないまま捕らわれると、フィジカルで強いといった通り力が強くて引きはがせない。抱きしめられるとより引き締まった体を感じる。
「好きなものは逃避か依存するしかないとか、不器用にもほどがあるで。酒もセックスもやりすぎて悪者みたいにしてるけど、ちゃんと付き合えば、好きなんやろ? 東は距離感ぜんぶバグってるから、適切な距離感を覚えらなあかん。酒は今日みたいにおいしく飲めるだけ、セックスも一人に決める」
そう言って体は離された。だけど、星一さんは俺の側頭部をぐっとつかむように持って次は頭が拘束された。目が強制的にあわされる。
「はなせ」
手をはがそうとするけどはがれない。
「例えば、おれに」
「何言って」
「おれとちゃんと付き合う。それがセックスとの距離感に練習にもなるやろ? 一石二鳥やん」
「意味わからない」
「おれ一人にしたら」
星一さんは俺の返事なんて聞かずにたたみかける。ずっと取りやすい上投げの球ばかりのキャッチボールだったのにそんな矢継ぎ早の直球受け取れない。
「なんか返事して」
「手を離してほしい」
「そうじゃない」
「いみわからない。俺、男だし。なに言ってんの」
「お前、そんなん、よう言えたな。ずっとおれにモーションかけてたやんけ。違うは通らんで、ここどこやと思ってんねん」
その通りだ。さっき襲ったばかりで通らない。俺は誰彼構わず男とも寝まくってる。だから俺には襲う名分がある。だけど、星一さんにはない。
「俺はモーションかけてるし寝たいけど、星一さんは違う。ずっといい人で流されてるだけじゃん。俺に付き合う意味がわからない」
「なんで」
「なんでって」
「おれはもし高校生の頃、電車で車酔いしてるおっさんに会っても、あんなかいがいしく世話なんて焼けへんかった。袋も水もくれて、そばで話して、扇風機回してくれてさ。めちゃくちゃイケメンやったやん。ときめくと思わん? そっから一日、旅行して、怒ったり寂しそうな顔みて、やっぱりあのときめきは間違ってないって思ったんや」
星一さんの手の拘束の力はいつの間にか弱くなっていて、指が頭を撫でている。少しかさついて大きな大人の男の手に俺の手ははがそうとしてはがせなくてあわさったままだ。
目が合うとあまりにも優しい顔で。
「付き合おう」
俺の方がときめいている。気持ち悪いぐらいに歓喜している。うまく息が出来なくて、整えるためにゆっくりと呼吸する。
「やりたいだけで、付き合うとかないから」
「そうなん? でもおれは好きやから、お試しでもいいし」
「俺と付き合ってもいいことない」
「いいことなくてもいいよ。できる経験はしとく派やから」
ああいえばこういう。もっと決定的な拒絶を言わないといけない。心ではわかっているけど、体が言葉をつくってくれない。
音楽も、酒も、セックスも、俺は好きをうまくできないから、すぐわからなくなって、信じられなくて、暴走する。星一さんを好きになったってきっとうまくいかない。
「ほら、付き合うって、いってみ? たったの四文字やで?」
口を閉ざしていると星一さんは煽りまくってくる。
「黙って」
だからつい、売り言葉にを買ってしまった。
「星一さんは、それでいいかもしれないけど、俺はもう、なにも好きになりたくない」
もう疲れたのだ。好きとか、人生とかに。そのために未練を解消したのに、もう未練はいらない。
「もう好きになってるんやから、遅いやん。だから付き合いながらいい関係性をさがそ?」
「好きとか、自意識過剰」
「いや、めっちゃおれのこと好きって顔してるで」
自分の顔は見えないけど、そうなんだろう。きっと最初から好きだった。普段よりおしゃべりだったのは、わかってないだけで全部好きで甘えていたからだ。
「俺、くそめんどくさいよ。わがままで平気で星一さんのこと傷つける」
「めっちゃわかるわ。そんな気ばりばりする。でもおれにも悪いとこめっちゃあるから、そんなもんやで」
あまりにものんきな声が、何を投げても受け取ると誘惑する。
「今度、」
「うん」
星一さんは今まで好きになったものの中で一番お手軽だ。もう一度、好きになることを試してみたい。だから、星一さんで練習する。そう正直にのべてもこの人は笑ってくれる。
「ギターを弾くからほめて」
「いいよ。聞かせて」
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