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本編3
距離が近すぎる。そういう言うと颯太は目を丸くする。
高人との和解、颯太との初めての外食など様々な事があったが(俺は忘れてしまっていたが颯太を名前で呼ぶ約束をしていたらしい。颯太が本気で落ち込んでいたのでそれは本当に申し訳ない)、その後颯太がやたら近くに座ってきたり、ボディタッチをしてくる。以前のようなギスギスとした空気は無くなったものの、俺たちはまだ息の合わないところも多々ある。そうした微妙なズレを修正しようと、颯太は俺との信頼関係を築こうとしてくれてるいるのだろう。だが、あまりにも近い気がする。やはりこの男は、人との距離の測り方が苦手なのかもしれない。
目を丸くして固まっていた颯太が「ハァ?」と若干怒気を含んだ声でこちらを鋭い目つきで見てくる。
「鈴木さん、本気で言ってます?」
「本気ってなんだ、距離が近すぎるのは本当だろ。あと皆本さんが話をしている時は皆本さんを見ろ。あの動画見たぞ、俺ばかり見ていたら大事な話を聞き逃す。颯太が俺と親交を深めようとしてくれてるいるのは分かるが……」
俺の話を遮るように颯太は下を向き、大きなため息を吐く。吐き終わるや否や、顔を素早く振り上げ先程より更に険しい顔で俺を見る。
「あのさぁ、アンタ本当に自分の行動覚えてないっすか?あれって本当に無自覚なんすか?」
「なんの事だ……?」
「ハァ!!??」
ここまで大きな声を上げる颯太は初めてで身が強ばる。俺の行動?俺はなにか颯太にしてしまったのだろうか。
「オレが歌に悩んでたら肩が密着するくらい近くに座ってくるのも、サラッと腕に触れてくるのも全部無自覚?アンタがファンになんて言われてるのか知ってるか、彼氏の近くにいて欲しくない男っすよ」
言葉が出ない。俺が、無意識のうちにそんな事をしていた……?全く自覚が無いため、颯太の嘘じゃないのかとも思ったが彼の真剣な顔を見るにどうやら事実らしい。
「待てよ、無自覚なら原田さんとか他の奴らにも今までこういう事をしてたってことか?クソ、どんだけ小悪魔仕草を……」
颯太が何やらブツブツ言っているが、注意できる程の行動をできていないのに颯太を注意していた事にショックを覚え頭に入ってこない。というか、彼氏の近くにいて欲しくない男ってなんだ。俺が他人の彼氏を取ろうとするように見えるのか。それもショックだ。
「無意識とはいえ距離を詰めすぎた、すまん颯太。今後は気を」
「いや、オレになら別にいいっすけど他の奴らには気をつけた方がいいっすよ鈴木さんのイメージに関わるから」
颯太が早口で捲し立てる。呆気にとられるが、確かにイメージの低下には気をつけないといけない。彼氏の隣にいて欲しくないアイドルとかなりたくない。
「だが颯太も距離を少し考えてくれないか……?その、俺も悪いが今まで他人と一定の距離を保って交流をしてきたと思っているから、急に距離が近づくのが苦手で……」
颯太は少し考え込んだ後、ニヤッと笑う。
「それって苦手なんじゃなくてどうすれば分からないだけじゃないっすか?芸能界って交友関係大事っすよね、あんま距離を取ってたら関係も広がらないっす。オレで1歩踏み込んだ交流に慣れていきましょうよ、オレにならどんだけ練習として近づいても気にしないっす」
「た、確かに……」
実際他のアイドルの人や普段お世話になっているスタッフさんともあまり交流が出来ずにいた。気になっていたことだ。折角颯太が練習に乗ってくれるというのだ。この機に関係を深めたい。
「颯太……俺は気を許した相手には自己肯定感が低い自分を見せてしまう。ファンであるお前には見たくない俺の姿を見せてしまうかもしれない。それでも、いいのか?」
「そんな部分が鈴木さんにある事くらい気づいてるっすよ、オレは確かにアンタのファンだけど同時にずっと一緒にいる相棒でもあるんすから」
「そうだったな……。練習、よろしくお願いします」
良い相棒を持ったものだ。皆本さんが最初連れてきた時はどうなるかと思ったが、こんな関係を築くことが出来るようになるとは思わなかった。
「手始めに鈴木さんのこと『陸さん』って呼んでもいいっすか?」
「それは別に構わないが……さん付けをしなくてもいいんだぞ?颯太は後輩ではあるが、同じユニットなんだし」
「いや、陸さんでいいんすよ。オレ、前言ったっすよね『アンタの上に行く』って。今はまだ上に行くどころか横に並べてもない。だから当分陸さん」
変な所で律儀で、そして負けず嫌いだ。高人との活動も勿論楽しかったが、颯太とはまた違う楽しさがある。この男となら、違う輝かしい未来も見えてきそうだ。
「あ、でもオレ以外で練習しないでくださいっすよ。アンタ距離感が1か100しかなくてバグってるんすから」
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