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番外編2
「颯太……颯太」
誰かに呼ばれた気がする。気持ちよく寝ていたというのに……と恨みを込めながら重たい瞼をゆっくりと開く。目の前にいたのは
「り、陸さん……?」
辺りを見回す。見慣れた天井、見慣れた家具、間違いない、ここはオレの家だ。ただ一点、陸さんがオレの部屋にいるといういつもはありえない状況に思考が追いつかない。
しかも陸さんのシャツ1枚という防御力の低すぎる服装は乱れ、肩や太腿が露わになっている。妙に色っぽい表情をしているし、ましてや横になっているオレに騎乗するような形になっている。
常日頃から周りの目を気にする陸さんは、乱れなど許さないと言わんばかりにきちんと服を着こなす。勿論オレにこんな表情を向けることは無いし、オレにこんな事をするわけが無い。
ありえない尽くしの陸さんを見てこれは夢だと断定をする。目を覚ませオレ……!!と自分を説得しようとするが状況は一向に変わる気配がない。このまま目を覚まさなければ、オレはこの状態の陸さんを見続けなければいけなくなる。そうなればオレの自制が効き続ける自信が無い。
夢だとしても陸さんに手を出すのはマズい、確実に現実の陸さんと接する際その光景を思い出してギクシャクしてしまうに決まっている。
オレが必死に己を律している間にも、艶やかな陸さんの顔は近づいてくる。
「り、陸さん!!近づかないで!!コレ以上は流石にまずいっすから!!」
「大丈夫だ颯太、俺に任せてくれ。颯太は寝ていればいい」
「陸さん経験があるんすか!?他の奴と!?」
悔しい!!と言いそうになるが、今返すべきはそれじゃないだろと頭を振る。どうすればいい、どうすれば陸さんの動きを止められる。
「今ここで一線越えたらユニット活動にも支障出るっすから……!!陸さん……!!」
陸さんはアイドルに対して人一倍情熱を持っている。この言葉が一番効くだろうと必死に訴えかけるが蠱惑的な笑みを浮かばせ、甘い声で言う。
「もうどうでもいい、颯太……俺と……」
焦りの感情が一気に冷めた感情へと薄れる。どうでもいい?アイドルの活動を、どうでもいいと言ったか?
そんな陸さんは……
「解釈違いだー!!!」
自分の叫び声で今度こそ目が覚める。急いで周囲へ目を向けたが、あの陸さんはいなかった。良かった……やはりアレは夢だったんだな……強く安堵する。
それにしてもあんな夢を見るなんて、あまりにもガキすぎる。もう23だぞ。
「今日のレッスン、絶対思い出すぞ……最悪だ」
陸さんの熱に浮かされて以降真面目に取り組んでいたレッスンだが、久しぶりに行きたくない、そう思いながらも渋々立ち上がる。
案の定今日のオレはダンスのキレが悪い。あんな夢を見たせいだ。上手く動かない自分にイライラしながらドスッと勢いよく座って休憩をとる。
忘れようとしても頭に浮かんでくる今日の夢の陸さんを振り切ろうと頭を振っていると、上から声が降ってくる。
「颯太、具合が悪いのか」
「いや、そういうわけじゃ……」
声の主である陸さんを見上げた。その構図が今朝見た夢の中での構図と重なる。
ダンスをした事で体温が上がり少し火照った顔、汗で張り付いた前髪。それらが、嫌でもオレに夢の陸さんを想起させる。
顔が暑くなるのを感じた。
「顔が赤いぞ。やっぱり体調が悪そうだ、皆本さんに言ってくる」
「違うっすから!!!」
皆本さんを呼びに行こうとする陸さんの腕を勢いで掴んでしまったが、どう言い訳すればいいか思い浮かばず変に浮かれた状態で言葉が出る。
「あー、その、陸さんって他人とヤったことある?」
本当に何を言ってるんだ。こんなことを急に聞くなんて、オレのイメージがまた最悪になってしまう。
オレの咄嗟に出た馬鹿みたいな質問に、陸さんは初めは頭にハテナマークを受けべていたが、意味を理解したからかみるみるうちに顔がゆでダコみたいに真っ赤に染まっていく。
「お前っ、急に何言ってるんだ!?本当に熱があるんだろ、早く帰って寝ろ!」
陸さんに優しく叩かれる。めちゃくちゃ失礼なことを言ったのにそれだけで済ませた上に、皆本さんと連絡を取り、オレを家まで送るよう手配してくれた。
反応から察するに陸さんにはそういう経験が無い。冷静になれば、あの陸さんがアイドル人生のシミとなりそうな行為をする筈もない。怪我の功名ではあるが知ることが出来て安心した。
その後、皆本さんに家まで送ってもらい、体温を測ると本当に熱があった。あの夢も熱が見せたものだったのだろうか。
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