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研究と権力
ある日の昼。
「あーーーーーー……捗らない」
椅子に深く腰掛けたまま、バイルは背もたれに体を預けて仰け反った。
天井を見上げたまま、力の抜けた声を出す。
「シャルルくん。今朝の新聞を読んでくれないか……」
「はいはい。分かりましたよ」
シャルルは苦笑しながら、机の端に置かれていた新聞を手に取る。
「えーっと……『エプシアール家、またもや治安に貢献か』ですって」
「……ほう」
「ここの家、よく載りますよね。
街の巡回だの、治安維持だの……」
「エプシアール家……」
バイルはゆっくりとその名を反芻した。
「王国の有力貴族だったな。……お貴族様のくせに、よくやるものだ」
「先生、なにか因縁でもあるんですか?」
「いや」
即答だった。
「因縁と呼ぶようなものはない。ただ……貴族というものは、たいてい高いところから物を見たがるものだからね」
「まあ……それは、確かにそうかもしれませんね」
シャルルは曖昧に相槌を打つ。
バイルは小さく息を吐いて、ようやく体を起こした。
「……とはいえ」
視線を机の上に戻しながら、淡々と続ける。
「彼らが研究院に資金を回してくれるからこそ、
この研究は成り立っている」
「それは、そうですね」
「理想と現実は別だ。研究というのは、金がなければ何もできない」
一瞬だけ言葉を切り、
「……だからこそ、続けてほしいものだな。彼らの“善行”とやらも」
「……先生にしては、ずいぶん現実的な言い方ですね」
「研究者だからね」
そう言って、バイルはまた書類に視線を落とすのだった。
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