6 / 7

冬の祝祭 2話

灯火飾りの光が揺れる、賑やかな冬の市。 冷たい空気の中、甘い焼き菓子の香りが通りを満たしていた。 シャルルは、珍しく人混みに目を丸くしているバイルの腕を掴み、ぐいっと焼き菓子の屋台へ押すように連れてくる。 「先生、こっちこっち!絶対、先生好きですよこれ!」 「甘いものは……嫌いではないが…… その……人が多い……」 「大丈夫ですって!ほらほら、前、詰めますよ!」 半ば押される形で、バイルは渋々屋台の列に並んだ。 「先生、これ買いましょう!」 伸ばされた手が── 屋台の中央で、かすかに触れた。 コツッ。 「す、すみません!」 「……あ、こちらこそ……!」 ふたりは同時に手を引っ込める。 すぐさま、相手側の“保護者”が一歩前へ出て、 優雅な所作で軽く頭を下げた。 「私の連れが、失礼いたしました」 その声は穏やかで、しかしどこか、王族めいた威厳を帯びていた。 バイルは一瞬だけその青年を見つめ── 控えめに、短く会釈する。 「あぁ……いえ。こちらこそ……失礼しました」 それ以上の言葉を交わすことなく、両者はそれぞれ焼き菓子を受け取り、反対の方向へと歩き去っていく。 歩きながら、シャルルがぽつりと呟いた。 「……今の人、すごい迫力でしたね……」 バイルは紙袋を持ち直しながら答える。 「あれは……おそらく貴族だろう。 服装は控えめでも、立ち振る舞いがそうだ」 「えぇ? でも普通の服でしたよ?」 「貴族が“貴族らしく”歩くとは限らないよ。 それに、今日は祝祭だ。どんな身分の者が来ていても、不思議ではない」 「そっか……それもそうですね」 シャルルは納得したように頷き、袋の中の焼き菓子を覗き込む。 「先生、半分こしましょ!」 「……ふむ。では……いただこうかな」 二人は人混みに紛れ、灯火の揺れる通りへと消えていった。 ――しばらくして。 焼き菓子を食べ歩く客で賑わう通りから、 少し外れた静かな路地。 バイルは喧騒を離れた瞬間、壁に手をついて大きく息を吐いた。 「……う、うぅ……。シャルルくん……僕は……ここで待ってるから……君だけでも……楽しんでくるといい……」 人混みの熱気に当てられ、すっかり“人酔い”してしまったらしい。 シャルルはため息をつきつつ、その背を支えるように腕を添えた。 「全く……普段、外に出ないからそうなるんですよ〜」 バイルは目を細め、かすれた声で言う。 「君が……誘ったんだろう……?まさか……こんなに人が多いとは……」 「いやいや! 祝祭の日なんて、そんなもんですって!」 軽く笑ってみせたあと、シャルルは声を落とし、横目で先生を見る。 「……“あの”ドクター・バイルがこんなだなんて、世間には絶対言えませんね?」 バイルは弱々しく眉を寄せるだけで、反論しなかった。 「……シャルルくん……恥ずかしいから……その言い方は、やめてくれ……」 「はいはい。大丈夫ですよ、先生。ほら、もう少し休んだら、またゆっくり歩きましょ?」 シャルルは、子どもをあやすみたいに、 そっとバイルの肩を叩く。 「……はぁ、少し落ち着いたよ。……それじゃあ、行こうか……」 二人は再び、喧騒と灯火の中へと溶けていった。

ともだちにシェアしよう!