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第5話 オンラインにご用心

 のんびりした昼下がり。  俺はリビングのローテーブルにPCを広げて、オンライン会議の真っ最中だった。  今日はクライアントへのウェブデザインの提出日。いつもは部屋着のまま仕事してるけど、今日はちゃんと服着て、朝から『仕事モードの俺』で頑張ってる。 「こちらの案なんですけど、セクションごとに色分けして──はい、ここの数値の比較ですが──」  画面共有しながらのプレゼン。カメラはオフだけど、背筋はピンと伸ばしてる。  ……なんとなく気が抜けないんだよなぁ、こういうの。 「ではもう一案ありますので、今度はそちらをご説明します」 『よろしくお願いします』  イヤホンから先方の係長さんの声が聞こえる。こっちはカチカチとマウス操作しつつ、次の資料を出す準備してたんだけど……  なんか、めっちゃ視線を感じる。  ソファでダラダラしてるデカいの。  さっきからこっちをジーッて見てくるのは、もちろん伊佐希。  なに? 暇なの? 暇なら部屋の掃除でもしてればいいのに。 「仕事モードのナオ……かわええ」    やめろ、ウットリすんな。てか声出すな。マイク拾うだろ。  キッと睨んだら、伊佐希がソファから無音で立ち上がった。  お? さすがに通じた?……って思った俺が甘かった。 「……へへっ♡」  イタズラっぽい声が耳元をくすぐってきて、気づけば背後に伊佐希がするっと座り込んできた。  ちょっ、マジかよ!  そのままギュッと抱きこまれて、やけに熱い体温がピタッとくっついてくる。  いや、めちゃくちゃぬくいんだけど!?もしかして興奮してんの!?ビビったせいで手がブレて、マウスがおかしな動きになっただろ! (ちょっと伊佐希!邪魔しないでってば!いま会議中なんだって!)  小声で怒ってみたけど、全然離れる気配ナシ。 むしろ調子に乗ってない?これ。 「はい、こちらですが、よりユーザーライクなデザインを…………っ!?」  って、ちょ、なんでシャツの中に手ぇ突っ込んでんの!?腹とか撫でんな!やばいって! 「……ゃ、め……っ!」 『天海さん?どうかしましたか?』  すかさず係長さんが怪しんでくる。  どうかしましたかじゃないんだよ。恋人に襲われてま〜すなんて言えるわけないだろ!! 「──あっ、いえ、大丈夫です!画面がちょっとフリーズしただけで……すみません、続けますっ」  必死で無視したけど、そのせいで伊佐希は余計に調子に乗ってきた。  ……ちょ、待て待て待て!  なんでパンツに手ぇ入れてんの!?  これ以上はマジでアウトだから!! 「っ……!ちょっ……!」  こいつ、まさか抜こうとしてる!?  身をよじってみたけど、全然やめる気ない!  怒鳴りたい。今すぐ怒鳴りたい。  でも会議中。はい詰んでる。 「今表示されてる画面ですが──こちら、参考資料として……んっ……、提出っ……してます……っ」  声、絶対おかしい。  自分でもわかる。顔もたぶん真っ赤。  そんな俺の反応が楽しいらしくて、伊佐希は余裕たっぷりに囁いてくる。 「声……色っぽくなってるで?」  こいつ、今絶対ニヤニヤしてる!  腹立ってパシパシ太もも叩いてやったけど、伊佐希は仕返しにもっと張り切って扱き出してきた。    やば、くち、くちって音が……うぅ、伊佐希の手がぬるぬるしてきた……!  てかその手、濡れすぎじゃん!!いや、俺が出してるせいなんだけど!! 「……ナオの、ぴくぴくして可愛いなぁ……♡」 「…………んっ、……ぁ」  あったかい吐息と止まんない手のせいで、ビクビク震えちゃう。  ダメだ、こんなの……ダメなのに……っ♡ 『天海さん、いま何かおっしゃいましたか?』 「い、いえ!すみません……っ!マイクが拾っ──いや、気にしないでください!……っ、だいじょ……っ、ぶで……す……っん♡」  やばいやばいやばい!伊佐希の手がどんどん本気になってきた!  さっきまで片手だったのに両手使ってるよね!?弱いとこばっか狙ってるよね!?  そのせいで触られるたびにゾワゾワして、お腹の奥までキュッてなって……っ♡  ダメだ……!ダメだダメだ!!ここで気持ちいいのに屈しちゃいけない!  そう思って頑張ろうとしたけど——堪えようと伊佐希の膝をギュッと握ったら、逆に伊佐希をゾクゾクさせちゃったみたいで。 「ナオ……我慢してんの、エロすぎるわ……」    エロいのはどっちだよ!!  その吐息混じりの声やめろ!!  そう言ってやりたかったけど、耳たぶカプカプされるし、握られてるのももうグチュグチュだし……。  ——もう、無理。  だってこんなの、我慢できるワケないでしょ……!? 「っ……ぁ……♡ん……っ!」  ビクビクッと気持ちいいのが駆け上がって来て——迎えてしまった。  会議中に。限界を。 「ぁ……、すみません……っ!はい、え、ええっと……以上で、私からのプレゼンは……その、失礼します!」  パチンと慌てて会議を切る。  そして、すぐに後ろの伊佐希を睨む。 「……っ、おい伊佐希ッ!!お前何やって──っ、抜くなってっ!!」 「いやぁ、ナオが可愛すぎて我慢できへんかったわ♡さっきのあの声ヤバかったなー。仕事モードのナオがイってんの……最高やな」 「……お前っ!お前のせいで、俺もうWEB会議トラウマになる……っ!」  ポカポカ胸を叩いてやったけど、ニコニコしてまっったく動じない!ていうかまだパンツの中から手ぇ抜いてないんだけど!!いい加減触るのやめろよ!! 「バカバカバカバカ!!伊佐希のドエロバカ!!取引先の人、絶対変だって思った!俺、声震えてたもん!噛みまくったし!めっちゃ変な空気になってたッ!!」  叱ってるつもりだけど、恥ずかしさと自己嫌悪で目に涙が浮かんでくる。ていうかまだ快感が残ってて、正直頭ん中がふわふわしてる。  うぅ……こんなんじゃ全然説教になってない! 「あーあー……泣くなって、ナオ」  伊佐希が指先で俺の潤んだ目元を撫でる。  何その優しい仕草。てかちょっと待て。お前のその手、俺の触ってた手だろ!!ていうか泣かせてんのお前だからな!?!? 「いやでもな?『提出してます……っ』言うてた時のナオの声色っぽすぎて、俺もほぼイきかけたんやで?おあいこやない?」 「全っっ然あいこじゃないよ!?完全発射してんの俺だけだからね!?!?」  使ってたソファのクッションでボフッと叩いてやった。でも攻撃力ゼロ。伊佐希は相変わらずヘラヘラしてる。 「てかなんでそんな冷静に言ってんだよ!お前のせいで、俺……俺っ、会議中に……っ、イったんだぞ!?いちばん恥ずかしいやつじゃん!!」 「……え、ナオ、まさか俺と付き合ってていちばん恥ずかしいことが、会議中にイったことやと思ってんの?」 「いや違うけど!!他にもいっぱい恥ずいことあったけど!!」  コスプレさせられてイメプレさせられた時のこととか、友達にヤってる声聞かれてたこととか、思い出せば出すほど恥ずかしいことがモリモリ出てくる。  それもこれも、伊佐希が全部悪い!!  ……いや、違う。半分は俺も悪い。  でも今は全部伊佐希のせいにする!! 「……こんな、まさか、抜かれながら会議する日が来るなんて思ってなかったし……ていうか、あんなの、俺……っ」 「ナオ?」 「めっっっちゃ気持ちよかった……っ」 「知っとる♡」  つい本音を漏らしたら、にぱっと笑ってキスしてくる。  そして、耳元でこっそり囁く。 「……声我慢しながら抜かれる会議ナオ見てもうたら、俺、今後ずっと会議の日狙ってまいそうやなぁ」 「絶対やめろ!!もう一回やったら二度とエッチしないからな!?ほんとだからなッ!?」  必死に言ったつもりだけど、どこまで通じてんのか。  エロ満面の伊佐希の顔は、1ミリも信用がならなかった。 ***  あの会議の日から一週間。いつぞやのようにリビングのテーブルにPCを置いて仕事してたら、また伊佐希が寄ってきた。 「なぁナオ、今日も在宅なんやろ?今日ってもしかして、また会議ある日とか……?」 「うん、あるけど。——でも今日は」  ピッと手を伸ばして、伊佐希の鼻先にA4の紙を突き出す。  そこには、手書きの文字でこう書いてある。 『会議中!入んな・触るな・抜くな!! ※違反したら家出します』 「…………は?」  伊佐希がそれを読み終える前に、俺は仕事道具全部持って自室にダッシュ。  ドアの前にセロテープで張り紙して、中に入ってバタン!と閉める。  籠城作戦、決行。 「……え?ガチやん……」  ドアの向こうから、伊佐希の呆然とした声が聞こえる。  いやガチるわ!ガチるに決まってんだろ!!  これ以上会議中におかしなことされたら仕事もらえなくなりそうなんだからな!!  ただでさえ弱小フリーランスなのに、ヘンな噂立ったら死活問題なんだからな!?  ドアにはさっきの『立ち入り禁止&抜き禁止宣言』。久しぶりに手書きしたせいで字が下手になってて、何度も書き直したやつだ。  最初「触るな」の部分は「触らないでください」って書いたけど、線で消して「触るな」に直しておいた。  お願いじゃなくて命令形!俺の本気を少しでもわかればいいんだ!! 「……ふふっ。どんだけやねん」  半笑いの声が聞こえる。  そして、張り紙の端っこに書いた小さな文字に、どうやら気がついたみたいだ。 『お昼ご飯の時間になったら呼んでください。あと、アイス買ってあったら嬉しい。 ナオより』 「……可愛すぎて、ドア蹴破ってでも襲いたなるわ」  ドアにコツンって音がしたから、入ってくるのかと思ったら——   「ナオ〜。アイス、何がええ?」  聞かれて、即答する。 「雪見だいふく!」 「ほな買い物ついでに買うてくるわ。……仕事、頑張ってな」  労わるような声に、ちゃんと「うん」って答える。  ——そうして伊佐希が買い物に出掛けて、その間に会議が終わって。  休憩しようと部屋を出て張り紙を見てみたら、裏返った張り紙には、『おつかれさん♡』って子どもみたいな字で書かれてた。  その手書きの字にうっかり和んでたら……  下に小さく、こうも書かれていた。  『夜9時半、俺の部屋でナオとのラブ会議予約してまーす♡ 時間厳守やで♡by 朝宮伊佐希CEO』  いや、勝手にスケジュール決めんな!!  セクハラ法人の最高責任者名乗るのやめろ!!  ……と思ったけど、まぁ。  今日は、雪見だいふくで買収されてやるかな。    

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