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第6話 来襲!和泉平匡!

 寒い日って、どうしてこうも人肌が恋しくなるんだろ。  テレビで「寒波が到来」って言ってると思ったら、ビックリするくらい朝から寒くて。俺はぶるぶるしながら、ソファに寝転がった伊佐希にくっついた。  相変わらず体温めっちゃ高いし。湯たんぽ並みにあったかくて、思わず笑っちゃった。 「は〜、あったか。伊佐希ってさ、なんでいつもこんなぽっかぽかなの?筋肉のせい? それとも人体発火?」 「そんなん、ナオがこうやってくっついてくるせいやろ」  ギュッてされて、背中をぽんぽん撫でられる。こういうのって子ども扱いされてるみたいだなって思うけど……でも、結構好きだったりして。なんとなく落ち着くんだよなぁ。 「そうやってすぐ俺のせいにする」 「ナオがエロ可愛いのが悪い。ほら、もう股間とかめっちゃ熱いし」 「そこ限定!?ていうか反応早すぎない!?」  マジで勃ち始めてるし!相変わらず接触即エロだな!神経が下半身に直結してんのか!? 「……毎回思うけど、秒でスイッチ入るのなんなん」 「だってナオのぬくもりって、身体あっためるどころか火つけてくるもん。物理的にも、性的にも♡」 「昨日の夜3回やったヤツの反応速度じゃないんだよなぁ……うわ、どんどん大きくなってるし」  思わず呆れたけど、あまりに素直な反応するからちょっとおもしろくなってきた。  わざとお腹で擦るようにしてみたらピクピクして、伊佐希の顔がちょっと余裕なくなってる。  ……その顔。その「はっ」て吐息。どっちがエロいんだよ。 「反応良すぎ。どうなってんの?コレ」 「ナオのせいやろ……んっ、スリスリすんなって……余計熱なる……」  首筋に鼻先くっつけて、ちょっととろけた声で言ってくる。  ……あ、ちょっと吸われた。身体だけじゃなくて、やる気にも火がついてるじゃん。 「寒いからぬくもり欲しかっただけなんだけどなぁ」 「……それで俺が我慢できる思てんの?」  あー、もう目がマジだ。  ……でも、俺もちょっとその気になってきたかも。 「ナオかて、どうせ期待してスリスリしてるんちゃう?……もうヤりたなってきとるやろ?」 「……そういうとこだけ勘いいの、やめてくんない?」 「ナオのことはなんでもわかるし♡……ほな、一緒にあったまろか?」  ぐっと腰に腕まわされて、ちゅって耳にキスされて、低く囁かれる。 「ここで……たっぷり、な」  はい出た、ソファコース。ソファカバーが被害に遭うやつ。毎回洗濯大変なんだよなぁ……。  でももう俺も、完全にその気になってる。ピッタリくっついてるから、お互いの身体が反応してるのわかっちゃってて……誤魔化すのはもう無理。  伊佐希の熱い手が、速攻パンツに忍びこんでくる。  早いんだよ、展開が。なんて思いながらも、お返しにって伊佐希の服に手をかけたけど——  ピコン!  その瞬間、俺と伊佐希のスマホが同時に通知音を鳴らした。  いや、タイミング悪っ! 「伊佐希、LINE来てる」 「そんなんシカトや。こっちの方が大事やろ」  伊佐希は既読無視キメようとするけど、俺は気になってスマホに手を伸ばした。  『和泉(いずみ) 平匡(ひらまさ)』  ——通知にあったのは、見慣れた名前。  俺と伊佐希の、数少ない友達だ。   『久々に伊佐希の餃子食いたくなったから、これから食いに行くわ』  いや、決定してんのかよ!  普通は了承取るのが先だろ!  ……まぁ俺たちの生活パターンなんて知られてるし、家にいるのなんてバレバレなんだろうけど。 「和泉、これから来るって。伊佐希の餃子食べたいらしいよ」 「はァ?」  スマホを見せると、伊佐希は明らかに不機嫌になって画面を睨んだ。  ……すっかりやる気に水差されたけど、伊佐希の手はずっと俺の尻を揉んでる。  空気読む気ゼロ。諦めが悪すぎる。 「これから行くって、いつ来んねん」 「さぁ。でもこう言ってくる時って、大抵すぐ来るじゃん」  俺たちの家がたまり場になるのはいつものことだ。「はぁ」ってため息ついて、俺は仕方なく腰を上げる。 「とりあえず掃除しとこっか」  立ち上がろうとした瞬間、伊佐希の手がガシッと俺を掴んだ。  ……すっごい神妙な顔してるし。なにこの空気。 「……待て、ナオ」  思いっきり腕を引かれて、ソファに押し戻される。  いや、チカラつよっ!ちょっと痛いんだけど! 「今、エッチの流れやったやろ」 「は?」  思わずあんぐりする。  いや、マジ顔すぎるだろ。切羽詰まりすぎだろ。 「いやいやいや、流れって。和泉もうすぐ来るんだよ?エッチの続きとか無理あるでしょ」 「ナオは掃除して、俺は餃子の準備しとけってか?」 「そういうこと」  当たり前のようにうなずいたら、伊佐希の顔がぐにゃっと不満顔になる。 「はァ!?なんで俺が和泉のために餃子作って待ってなあかんねん!!」 「でもリクエストされてるよ?餃子しばらく作ってなかったし、たまには作ってあげれば?」    俺も久々に食べたいし。  そう言うよりも早く、ぐいっと俺の腰が抱き寄せられる。 「嫌や!ナオとエッチする!!」 「いや、駄々こねんな」  「子どもか!」ってツッコみたくなるのを堪えて、頭を軽くポンポンする。  ……またぴえん顔してるし。幼稚園児か。 「今ヤってる場合じゃないだろ。どうすんのさ、ヤってる途中で来たら。伊佐希絶対やめられないでしょ」 「……でも俺、めっちゃムラムラしてたのに……」  拗ねた目で見上げてくる伊佐希が、ちょっと可愛くて困る。  ……言ってること、性欲100%のケダモノなんだけどな。 「はいはい、あとでな」  苦笑しながら、指先でちょいと鼻の頭をつついてやる。  いつ見ても筋が通ってて綺麗な鼻だな。羨ましい。 「和泉が帰って片付けも終わったら、そのときはちゃんとあっためてあげるから」 「ほんまに……?」 「ほんまに」  マネっこして返したら、伊佐希はようやくソファからのそのそ起き上がった。  不機嫌丸出しのままだけど、とりあえずお預けは受け入れたみたいだ。よかったよかった。 「じゃあ餃子……ちゃっちゃと作ったるわ」 「えらいえらい」  「はぁ〜〜〜っ」ってでっかいため息落としながら、伊佐希はキッチンへ向かう。  俺はその背中を笑いながら、部屋の隅にあるフロア用ワイパーを手に取った。  とりあえずリビング片付けておかなきゃな。クッション直して、ブランケットたたんで、テーブルの上も片づけて……    と思ったら、キッチンから早速恨みがましい声が聞こえてきた。 「……なんで俺、餃子なんか作っとるんや……ナオとイチャイチャしとったのに……」  言いながらも、包丁の音がリズミカルに聞こえてくる。  トントンッ、トトトトト…… 「冷蔵庫の肉も野菜も、ほんまはナオと鍋でもしよ思てたのに……!」  トトトトト……ザクザクッ!! 「俺とナオのラブラブホリデーが台無しや。全ッ部和泉に邪魔されとるやん……ッ!」  ザクザクッ!!ザクザクザクッ!!    いや、恨みすごっ!!  ラブラブホリデーって何。ただエッチしようとしてただけじゃん。この流れ、休み関係なくほぼ毎日だからな?    内心ツッコミながらも、俺はリモコンを元の位置に戻す。  ていうかみじん切りの音、包丁のキレ良すぎて、白菜じゃなくて和泉が刻まれてる気分なんだけど。 「……ナオがスリスリしてきたんが悪いんや……俺が悪いわけちゃう……」 「はいはい、スリスリの責任押しつけんな〜」  コップを持ってキッチンに入ったら、伊佐希がじとっと見つめてくる。  うわ、白菜こっぱ微塵だし。でもいいのか。餃子だし。 「……はぁ……ムラムラだけ残った状態で餃子作るとか……どんな罰ゲームやねん……」 「それなりに楽しそうに見えるけど?」  ひときわ大きくザクッ!!って音がした。  白菜、完全に八つ当たりされてるじゃん。かわいそうに。  ボウルに入った挽肉に、切りまくった白菜とニラとニンニクを入れる。  伊佐希の大きな手でコネコネしてるの見ると、もうすでに美味しそうに見える。  楽しみだな、久しぶりの手作り餃子。 「ナオ、まな板んとこにある皮とって」 「ん」  言われて、作り置きの餃子の皮を渡す。解凍されてるのを確かめて、伊佐希はちらっと横目をよこす。 「ナオ、包むの手伝ってくれるか?」 「いいよ。あんまり上手くないけど」 「大丈夫や。ナオが包んだヤツは上手かろうが下手やろうが、全部俺が食うから」 「いや、食べすぎでしょ。俺と和泉の分なくなりそうなんだけど」 「ナオの手が包んだ餃子を和泉になんぞ食わせるか!つーかアイツのだけパクチーまみれにしたればええねん!」 「いくら和泉がパクチー嫌いだからって、そういう嫌がらせやめなよ」 「正当な復讐やろ。俺とナオのエッチを邪魔したんやからな」  まだ言うのか。ほんと諦め悪いな。  二人でキッチンに立って、タネをスプーンですくう。皮にのせて半分に折ったらひだを作るんだけど、これが苦手なんだよな。  あ、やば。めっちゃ歪んでる。 「餃子食ったらサッサと帰れ言うたる……絶対帰らせる」 「はいはい、追い出そうとしない。そもそも和泉のことだし、泊まるって言い出すかもよ?」 「泊まるいうたら、簀巻きにしてベランダに放り出したるわ」  伊佐希の餃子、タネのせすぎてパンパンになってるし。恨みと一緒に盛りすぎなんだよ。 「包めてないじゃんそれ。はみ出てるよ」 「……ナオが和泉の味方するから……」  唇尖らせて、むすっとする。  どんだけ根に持ってんだよ、さっきの中断。 「別に味方なんてしてないって。それに、エッチなんて毎日してるじゃん」 「ナオはエッチを軽んじすぎや!俺との大事なラブの儀式やで!?」  熱弁がすごい。  伊佐希の愛が重いのは今に始まったことじゃないけど、ラブの儀式ってもうそれ宗教だろ。  ブツブツ言いながらも、ふたりで延々と餃子を包む。  作り置き分も含めて、たっぷり100個。これだけあったらお腹いっぱい食べられそうだし、別の日にもまた食べられそうだ。 「ようやく終わったね」  包み終わった餃子を見たら、伊佐希のと俺のじゃ全然出来が違う。  伊佐希ってほんと器用だよな。見た目と違って。    伊佐希がフライパンを火にかける。  俺はその横で、じっと焼くのを見つめる。 「……そもそも、なんで急に餃子やねん。アイツ大学忙しい言うとったやろ」 「暇ができたんじゃないの?ていうか伊佐希も俺も友達少ないんだから、邪険にしないの」  諌めると、伊佐希がむーっと口を曲げて、ジト目で俺を見てくる。 「……ナオってさぁ、昔から和泉の肩持ってへん?高校ん時も、和泉に勉強教えたりしてたやん」  ……はぁ。まだ言うのかよそのこと。何回この話するんだよ。 「そんな昔のことでヤキモチ妬かないでよ。大体何度も言うけど、ただ勉強教えただけだからね?それも一回だけじゃん」 「せやかてめっちゃ優し〜く教えてたやん。『和泉って覚えるの早いね』なんて言うてさぁ」 「そんなの別に優しいうちにはいらないだろ。ていうかあの時、邪魔しにきといてまだ言う?『俺もナオに教わる!』って割って入ってきてさぁ。和泉に突っかかりすぎでしょ」 「それはアイツがナオの近くウロチョロするからや!」 「ウロチョロって……和泉はただの友達だよ?ていうか元は伊佐希の友達だろ?ルームメイトだったんだし」 「俺のナオにちょっかいかけたら、誰であろうと敵や」 「また俺のって言ってるし」 「ナオは俺のやん♡心も身体も♡」 「はいはい、フライパン集中してー」  水をひと回り入れたら、じゅわっと蒸気が立つ。  餃子を焼く強火の炎は、まるで伊佐希の嫉妬の火みたいだ。  ——焼きすぎて、焦げなきゃいいけど。  そんなことを考えながら、俺は密かに、ガラス蓋の下で焼かれる餃子を見守っていた。 ***  ——ピンポーン。  インターフォンが鳴ったのは、ちょうど餃子が焼き終わる頃だった。  「ナオ、出てー!」ってキッチンから声がして、俺は箸やコップを並べる手を止める。  インターフォンをピッと押したら、見慣れた軽い笑顔が「よっ」て感じで手を上げた。  ……インターフォンの画像粗いのに、イケメンっぷりは揺るがないな。さすがモテ男。   「どーぞー」  マンションのエントランスを開けて玄関まで出ると、すぐに和泉はやってきた。  手には大きなコンビニ袋がひとつ。ひょいっと持ち上げて、俺に手渡してくる。 「おっす。栄養補給しにきたわ」    ビニール袋を覗いてみれば、袋の中は缶チューハイと伊佐希が好きなつまみ。それに俺の好きなシュークリーム。完全に飲む気満々じゃん。 「和泉、来るのいきなりすぎ」 「伊佐希もナオもほぼ家にいるんだしいいだろ?いっつも引きこもってセックスばっかしてんだから、たまには友達を歓迎しろって」 「はっ!?してないし!!」 「嘘つけ」    うん、まぁ嘘なんだけど。  でもいきなりそんな挨拶はないだろ!開幕人んちの性生活に切り込んでくるなよ!!   「ほんじゃお邪魔しまーす。お、めっちゃいい匂いしてんじゃん。もしかしてタイミングバッチリ?」 「……今焼き上がったとこ」 「マジ?やりィ、焼きたて最高〜♪」    ノリ軽っ!そんなに楽しみなのかよ!  ウッキウキな和泉と一緒に、餃子の匂いいっぱいのリビングに入る。  ダイニングテーブルには餃子を並べる伊佐希がいたけど、絶賛ご機嫌ナナメだ。特級呪霊かってくらい和泉を睨んでる。 「おっす伊佐希。人殺しみてーな目してっけどどうした?」 「……和泉。お前のせいでナオとのイチャイチャエッチがご破算になったんや。この恨み、末代まで祟るで」 「こわっ。開口一番それ?」  言いながらも遠慮なくロングコートを脱いで、和泉は鼻で笑う。 「ていうかさ、四六時中ヤってんのに、ちょっと邪魔されたくらいで怒んなよ」 「四六時中は盛りすぎやろ。夜と、昼と、あと朝にちょっとヤるだけや」 「それを四六時中って言うんだよ!!食生活と並ぶな!!どうなってんだよお前の精力!!」    堂々と訂正してきて、こっちが吹き出しそうになった。  和泉のツッコミ、ほんとそれ過ぎる。俺、すっかりその生活に慣れてたわ。 「はァ?俺とナオの性生活に口挟むなや!大体お前はいきなり餃子食わせろとか図々しいねん!地面に頭擦りつけて来いや!!」 「お前らの好きなつまみとスイーツ買ってきたんだしいいだろ?迷惑料払ってんだしチャラだろ、チャラ」 「お前に食わせる餃子の材料と手間、誰が払てると思ってんねん!コンビニ土産なんぞで許されると思うなや!!」 「じゃあ牛すじ煮込みいらんの?」 「いるわ!!食うに決まっとるやろ!!」  餃子のタレを作りながら、思わず笑ってしまう。  ほんとこのふたり、仲悪いようで息合ってんのなんなんだろうなぁ。 「まぁそんなカッカすんなって。せっかくの餃子が冷めちまうだろ?あったかいうちに食べようぜ?」 「お前が仕切んな!」 「ほら伊佐希。俺もお腹すいたし、みんなで食べよ?ね?」 「……ナオがそう言うんやったらしゃーないわ。ナオのご飯、大盛りにしとくな?」 「俺も大盛りでよろしく〜」 「お前には聞いてへんねん!!」  完全に遊んでるな、和泉。  伊佐希はめっちゃ文句言ってるけど……でも、ふたりとも楽しそうだな。  それってたぶん、なんだかんだ和泉のこと、ちゃんと友達だと思ってるからなんだろうな。    ——だから伊佐希は、和泉には、キレないでいられるんだろうな。   「じゃあ食べよっか」 「せやな」 「よっしゃ、いっただっきまーす!」  大皿から餃子を取って一口。  食べた瞬間、和泉の目がぐわ!っと見開いた。 「うまっ……!!コレだよ、コレ!!」    めっちゃ感動してるし。ていうかすごい勢いでふたつめ食べてるし。 「和泉、落ち着いて食べなよ」 「俺ら差し置いて何バクバク食っとんねん。ちっとは遠慮せいや」 「すんませーん。美味しくて止まんないです〜」    言いながら、和泉がほかほかのご飯を頬張る。  ……すごい美味しそうに食べてる。なんか見てたら、俺も早く食べたくなっちゃった。  和泉に負けじと、俺も餃子を取る。  酢ごしょうたっぷりつけてっと……  うわっ!!肉汁ヤバ!!あっっつ!! 「いやぁ、普段冷凍餃子ばっかだけどコレとは全然違うんだよな〜。皮もちもちだし、肉汁えぐいし。伊佐希、マジでお前店出せるって」 「ふん……」  あ、ふてくされ顔なのにちょっと得意げじゃん。素直に喜べばいいのに。 「やっぱチューハイ買ってきて正解だったなぁ〜。レモンと餃子、相性最高」  グビッとチューハイを煽って、ぷはぁって満足そうに息をはく。  そんな和泉の顔をじっと見てたら、ふと、頬の辺りがこけてることに気がついた。 「……なんか和泉、痩せた?」 「え?そう?」 「顔、前より細くなった気がする」  伊佐希も気づいてたみたいだけど、じとっと見てるだけで何も言わない。  和泉は口をもぐもぐさせながら、ちょっとだけ気まずそうに「あー」って笑う。 「……最近、大学のレポートすげぇ重なっててさ。そんでガリ勉してたら、栄養足りなくてぶっ倒れたんだよ。そのせいじゃね?」 「は!?」  思ったより大事で、思わず声が出た。  伊佐希の不機嫌な顔も、驚いて渋い顔に変わってく。 「倒れたて……アホちゃう?」 「いやいや、倒れるって言っても軽くだよ?保健室でちょっと寝ただけだし」 「病院行ってへんのか」 「食えば治るのに、いちいち病院なんか行かねーよ」  和泉は軽く流してるけど、こっちは全然笑えない。  一人暮らしでまともにご飯作ってないとは聞いてたけど……栄養失調になるまでなんて、さすがに食べなさすぎだよ。 「……ほら、ちゃんと食べなよ」  心配になって、和泉の皿に焼きたての餃子を追加する。  お腹いっぱい食べて栄養取ってもらわないと、また倒れるかもしれないし。 「おー、ナオ天使じゃん。優しさが胃袋に染みるわ〜」  にんまりと笑いながら、和泉はまたパクッと餃子を口に運んだ。  ……めちゃくちゃ噛み締めてるな。ほんとに食べたかったんだ、伊佐希の餃子。  ふと、和泉の瞳が深くなる。  またひとつ餃子をつつくと、思い出深そうな吐息がこぼれる。 「……これ食うとさ、思い出すんだよな。高校時代の寮のこと」  しみじみと語り出した和泉が、「くっ」と思い出し笑いをする。    ——高校時代。  俺たちが通っていた男子校のことを、和泉と一緒に思い出す。 「ナオが『餃子食べたい気分』って言ったら、伊佐希がいきなり部屋で餃子作り出してさ。あれマジビックリしたんだよ。部屋帰ったら、勉強机で肉こねてる奴いるんだもん。ホットプレートまで用意してさ」  当時の寮生活を思い出して、和泉の声が弾む。  伊佐希とクラスメイト兼ルームメイトだった和泉は、当時から俺に構いまくってた伊佐希の奇行を何度も見てた。  なんなら、迷惑だってかけられまくってた。  なのに和泉は、俺たちとよく一緒にいた。  卒業してからもこうして、定期的に遊んでる。  ——それがずっと、不思議だった。  俺も伊佐希も、あれだけ学校で浮きまくってたのに、って。 「あの時ナオと伊佐希と三人で餃子食ったけどさ、部屋ん中めちゃくちゃ餃子の匂いしてたろ?当たり前だけどバレて、めっちゃ怒られたよなぁ」 「そんなんもう忘れたわ」 「忘れんなって。お前のせいで、俺まで1ヶ月風呂掃除の罰受けたんだからな?」 「はァ!?あの時ナオより食ってたお前が言うなや!!」 「やっぱ覚えてんじゃん」  ——どうして和泉は、俺と伊佐希と友達でいるんだろう。  昔から思ってたけど、ちゃんと聞いたことはない。  こうしてただ気楽に話し合うのが楽しくて……それだけでいいと思ったから。   「……和泉。ほんとに身体、大丈夫なの?」  餃子を頬張る和泉を見ながら、俺はもう一度聞く。和泉はキリッとした瞳を細めて、優しく笑う。 「うん。ありがとな。ちゃんと心配してくれんのナオくらいだから、ちょっと嬉しいわ」 「べ、別に……そこまで心配してるってワケじゃないけど」  ……茶化しもせずに感謝されると、ちょっと恥ずかしい。  お茶をすすりながら目を落としたら、横からじと〜っとした視線を感じた。  伊佐希の目、圧強すぎ。無言で見んのやめてほしいんだけど。 「……………………」 「……なに?」 「……和泉の心配ばっかしとるナオ、おもんない」 「なにその言い方!?倒れたって聞いたら心配すんの普通でしょ!?ていうか伊佐希もちょっとは心配しろって!!」 「してへんとは言ってへん」  むくれてそっぽを向いた伊佐希の声は、いつもよりちょっと低かった。  そんな空気の中、和泉はいつの間にかご飯を綺麗に平らげて、空になった皿と空き缶を持ってすくっと立ち上がった。 「よっし、ごちそうさん。うまかった!……さて、今日は片付けてさっさと帰るわ。レポート明日までのあるし、追い込みしねぇと」 「え、泊まんないの?」 「ナオ、期待すんなや」 「別にしてない!」 「期待させてごめんな〜?ま、俺が帰ったら存分にイチャイチャ出来るしいいだろ?」  皿をキッチンに下げて、和泉がササッと洗い始める。  俺と伊佐希も一緒に皿を持っていったら、餃子を作るのに使ったボウルやフライパンまで洗ってくれてた。  ……こういうとこ律儀なんだよな、和泉って。   「お前が居ようが居まいが、俺らはいつでもイチャイチャするけどな」 「うん。俺が泊まってる時に部屋でヤりだす伊佐希が言うと説得力が違うな」 「やめろやめろ!!その話禁止ッ!!」    声聴かれた俺が一番ダメージ食らうんだよ!!持ち出すなその話を!!  慌てて話題を阻止すると、伊佐希はタッパーに余った餃子を詰めだす。    冷凍庫にしまうのかな。    そう思ってたら、伊佐希はタッパーを和泉に差し出した。 「……おい、これ持ってけ」 「え、くれんの?」 「腹減らして倒れるとかアホやろ。ちゃんと食えや。……ナオに心配させんな」  一瞬、和泉が目を丸くして、それからにやりと笑った。 「……伊佐希、お前ホントはナオより優しいんじゃね?」 「は!?ちゃうわ!!優しさやのうて善意の押し売りや!!」 「はいはい、サンキュな〜。押し売り、ありがたくいただきまーす」  にっこり笑って、タッパーを受け取る和泉。  伊佐希は照れ隠しでブツブツ文句を言ってるけど……でもちゃんと、俺と一緒に玄関まで見送りに出た。 「じゃあまた連絡するわ。レポート終わったらさ、今度はタコパしよーぜ」  靴を履きながら、和泉が振り返る。 「久我坂と白雪と、羽澄ちゃんも呼んでさ。俺、ちゃんとネギと天かす持ってくるから」 「一番安い具を選ぶなや。言い出しっぺはタコ用意せぇ」 「タコパ、前に一回したっきりだもんね。羽澄ちゃん来るなら、さすがに白雪さんも具にとんでもないもん入れなさそうだな……」 「ヘンな具入れるから楽しいんじゃん。まぁでも、とりあえずは暇できてからだな」  ロングコートをしっかり閉めて、マフラーをぐるっと巻く。ドアを開けたらひんやりとした空気が家に入り込んで、思わずぶるっと身震いする。  うぅ、寒ッ!そういえば寒波来てるんだった。……こんな日にわざわざ来たんだな、和泉。 「ごちそうさん。今日はありがとな。じゃ、またな」  パタンと、玄関のドアが閉まった。  伊佐希はすぐにリビングに戻ろうとする。その背中に駆け寄って、俺は微笑みながら声をかける。 「……なんだかんだ言ってさ。和泉のこと、心配なんでしょ?」 「別に。んなことない」 「ふーん。じゃあなんで餃子持たせたの?」 「たまたま作りすぎただけやし」 「はいはい。じゃあ次タコパやる時も、たまたま作りすぎないようにね?」  素直じゃない態度にニヤニヤしてたら、伊佐希が振り返って、ちょっとだけ睨むような目を向けてきた。 「ナオ、からかいすぎやろ」 「ふふっ。でも伊佐希のそういうとこ、俺は好きだけどね?」 「……そんな可愛いこと言うたら、今すぐ押し倒すで」 「えー、今お腹いっぱいなんだけど」  なんて言いつつ、ソファに座った俺の横に、伊佐希もぼすんと腰を下ろしてきた。  伊佐希はすぐに俺を抱き寄せる。  その腕は、さっきよりも少し優しかった。 「なあ、ナオ」 「ん?」 「和泉も帰ったし……ええやろ?」  帰った途端かよ!  ……なんて思ったけど、ちょっと眉尻下げた甘え顔は可愛い。こっちも思わず頬が緩んじゃう。  そっと、唇が近づく。  だけど俺は、人差し指を伊佐希の唇の前に立てて—— 「ストーップ。今日はキスだめ」 「……は?」  ぴたっと止めたら、伊佐希が納得いかなさそうに息をこぼした。  その息が——めっちゃニンニク臭い。 「餃子、ニンニクめっちゃ効いてたでしょ。俺たち、今すっごい臭いと思うよ」 「……」  伊佐希の顔が一瞬、真顔になる。  ——と思った次の瞬間、ソファから立ち上がって両手を天に突き上げた。 「和泉ぃぃぃ!!!!アイツのせいやああああああぁぁぁ!!!!」 「いや、和泉がニンニク入れろって言ったわけじゃないし」 「でもでもでも!和泉が来ぉへんかったら餃子作ってへんかったやろ!!ナオとエッチしてたやろ!!!キスもできたやろぉぉぉ!!」 「はいはいうるさい〜。ほら、一緒に歯磨きするよ?クールミントでしっかりね」 「うぅ……和泉……この恨み、根深いで……」  恨みつらみを言いつつ、洗面所に向かう背中は、なんだか情けなくも可愛くて。    俺はそんな伊佐希の腕に絡みながら、一緒に歯磨きへと向かうのだった。  

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