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剥奪 6
「……う…ぇ……っ」
泣きながら吐いて、ヴェネッタはどうにか自分を宥め続けていた。
「ヴェネッタ先輩…?居ます?」
急に聞こえてきた声に、ハッとなって顔を上げる。
証拠隠滅のように水を流し、慌てて口元と涙を拭った。
「……先輩?何してるん……?」
振り返るとイヴィトが立っていて、ヴェネッタは慌てふためきながら立ち上がった。
「な、ななななんでもないです!イヴィト殿、ど、どうされましたかな…!?
あ…あぁ!そういえば頼まれてた資料がありましたな、え、えっとちょっとお待ちくださいね!」
ヴェネッタは誤魔化すように笑うとバタバタと部屋に戻り、机を漁った。
全然ノックの音が聞こえていなかった。
彼にはバレていないだろうけど、妙に焦る気持ちが湧き起こってきてしまう。
「ヴェネッタ先輩……」
「い、いやーどこにやったかなぁ?整理整頓ができないのも考えものですよね…じ、ジエン殿にもいつも怒られて…本当情けないやらなんやら…」
「先輩!」
イヴィトに肩を掴まれてそちらに身体を向けさせられてしまう。
彼は少し怒ったように睨んでいて、ヴェネッタは泣きそうになって思わず俯いた。
「泣いてたんとちゃう?」
彼の指先が顎に触れて、そっと顔を持ち上げられる。
紅茶色の瞳にじっと見られていて、ヴェネッタの視界がまた滲んでいってしまう。
普通、になれたら。
もしかしたら。
この人にも。
「あは…なんでもないですよ…、ちょっと…色々と嫌になって…
嫌になっている自分が嫌になって…、…まぁーメンがヘラっていると言いますかー…ね、大した事じゃありません…」
ヴェネッタは吐き出すように小さく笑って、離れてという意味でイヴィトの胸をとんとんと軽く叩いた。
そしてまた彼に背を向ける。
「平気……、平気です…」
自分にも言い聞かせるように呟くと、急に身体が何かに包まれた。
「そうは見えんよ…ヴェネッタ先輩……」
すぐ耳元で、イヴィトの声がした。
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