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剥奪 9

「…先輩からしたら俺なんて…何にも苦労した事のない甘えたなガキに見えてるやろな」 頭がイヴィトの胸に触れていて、心臓の音が聞こえてくる。 いつもみたいな彼の体温と相まって、それがなんだかすごく落ち着けるような気がして 様々な感情が洪水のよう溢れかえっていたヴェネッタの頭は静かになっていくようだった。 「先輩が頑張ってる姿見て…俺も頑張ろって、何も文句言わんと直向きで…明るくしとる先輩に…いつも俺ばっか助けられて、俺ばっか救われて… こんな頼りない奴には何も話せんし預けられんよな……ごめんな……」 イヴィトの声は少し涙声だった。 一体何を言っているというのだろう、とヴェネッタは僅かに首を横に振った。 「……自分は…そんな立派じゃない…」 「先輩にとってはそうかもしれん…けど、俺にとっては…そうなんや 俺にとっては…先輩はすごく輝いてて…光みたいに、思う…」 光? そんな事は思った事もなかった。 ヴェネッタは自分ではどちらかといえば真逆のような気がしているのだ。 じめじめとした暗い所でいつも這い蹲っていて、誰かが気付かず踏んでしまうような存在なのかもしれないと。 誰も救わないし、誰にも救われない。 生きていたいのならそれなりの代償を払えと言われるような、そんな。 イヴィトはヴェネッタの身体を少し離すと、いつもみたいにちょっと困ったように微笑んだ。 「…ごめんな… 先輩がどっか行くんやったら…その前にチューしたろー思うて」 彼の瞳には少し涙が浮かんでいた。 だけど、ヴェネッタの濡れた頬を両手で包むように撫でてくれる。

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