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出来ること 1

自分は出来ることが沢山あると思っていたけど、本当は、好きな人が泣いているのに何も出来ないような無力な人間だった。 イヴィトはそうやって己の無力さに絶望していた。 泣き疲れて眠ってしまったヴェネッタの小さな頭が膝に乗っていて、ただそれを撫でながら唇を噛み締めている事しかできない。 ヴェネッタは愚痴や不満を感じていないわけでも、傷付いていないわけでもなくて ただその身体に溜め込んで、溢れ出さないように必死に蓋をしているだけなのだろう。 イヴィトは、死にたい、なんて思った事はなかったけれど きっとヴェネッタはそれくらい追い詰められて、何度も何度もそれを打ち消していたのだろう。 爆発していた彼の感情も言葉も、そんな事言うななんてとてもじゃないけど言えなくて それに代わるような気の利いたことも何も思い付かなかった。 精々彼が本当に消えてしまわないようにここに居座る事が精一杯だった。 「……すごいなぁ…先輩は……」 イヴィトは自分が泣いてもしょうがないと思いながらも、彼の顔を見ていると涙が滲んできてしまって 眉根を寄せてそれが溢れないようにした。 好きな人が泣いていて、 こんなに苦しんでいるのに何にも出来ないなんて、これ以上しんどい事なんてないかもしれない。 暫くそうしていると物音がして、ヴェネッタのルームメイトのジエンが部屋に帰ってきたようだった。 彼はイヴィトの顔を見ると顔を顰めている。 「…うわ、なんだ…来てたのかよ…」 「ジエン先輩……」 「まさかお前達……」 ジエンは二人の様子を一瞥すると心底嫌そうな顔をして窓に駆け寄り、それを開け放っている。

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