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心に置くもの 4

500年の借金は嘘で、紙切れ一枚で消え去ってしまうようなものだった。 本当はそこには父親と繋がるものなんて何も無かった。 それどころか、ヴェネッタは何も父親と繋がるものなんて持っていないとすら感じていた。 暖かな家庭も伴侶も、仕事も爵位も生まれ育った屋敷も。 今生きているのかどうかすらわからない父親から、ただただ奪っているだけみたいで。 「狡くなんてない…!先輩は何一つ悪くないやろ…!」 床にへたり込んでいるヴェネッタの背中にイヴィトの声がぶつかった。 「なんで…!?何で怒らないん…っ!? いなくなれなんて言う人間のことなんて、俺は例え親でも好きになれん……っ」 スーは思っている事を言った方がいいと言っていたけど、やっぱり自分の気持ちを吐露すると誰かを怒らせてしまうみたいだ、とヴェネッタは苦しくなって涙を拭いながら首を横に振った。 「…ごめん、なさい……い…イヴィト殿を怒らせたかったわけじゃ…」 「怒るよ……っ、怒るよ!ヴェネッタ先輩がこんなに傷付いてるんやったら…っ…… それなのにまだ……、そうやって…自分一人で背負おうとして…っ…」 背中から、炎みたいな熱さを感じてヴェネッタは震えながら振り返った。 イヴィトは両手を握り締めていて、彼の身体の周りが少し歪んでいるように見えた。 「誰の所為にもしない先輩が、俺はすごいと思ってる…っ…尊敬してる…っ でも、だからって…自分の所為になんてせんで欲しい…っ!」 「い…イヴィト殿…」 「奪われてるのはどっちや!?! 先輩のこと、平気で傷付けるような人間なんかに奪われてたまるか…っ! 先輩の人生も心も全部、先輩のもんやろ…っ! ヴェネッタ先輩に、罪を背負わせるような神なんて…そんなの神じゃあらへん…っ!!」

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