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心に置くもの 6

「……イヴィト殿……」 ヴェネッタは泣きながらつい両手を差し出してしまった。 腰が抜けてて震えているのに、彼に向かって両手を広げる。 するとイヴィトはすぐさまやって来て、ヴェネッタを抱き締めてくれた。 「ただ…ず…ずっと…愛されたかっただけなんです… 死んでも、大事にされてる兄が羨ましかった……」 彼の体温に包まれながら、ヴェネッタは段々と自分の本心が浮き彫りになっていくような感覚になっていった。 それは、今まで見ないようにしていた、見たくない自分の汚い部分のようだった。 「ほん…ほんとは、なんで自分がこんなことしなきゃいけないんだろうって…、 ふ、…“普通”は…親は、子ども…殴ったりなんか、しないんじゃないかって……で、でも…父親を恨んだら……っ こんな理不尽な世界を恨んだら…、…自分の中から…良い心が全部なくなって… 世界に確かにあるはずの…愛とか優しさとかを…、信じられなくなってしまう気がして……」 愛されたくて、見て欲しくて、必要とされたくて。 沸き起こって来る不平不満や苦しみや悲しみは、その願望の妨げになってしまうような。 「信じていればいつか……自分だって…愛されるかもしれないとかいう… 卑しい魂胆なんです………」 恨みたくなるような自分を叱り付けて心の奥底に閉じ込めていても、結局は誰に愛されることもない。 それはずっと、生きている所為だと思っていた。 生きたくて、死にたくて。 ぐちゃぐちゃになっていく自分の本当は、 ただほんの少しの愛を求めていただけの小さな自分は、果たしてどこにいってしまったのだろう。

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