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心に置くもの 8

「もう先輩は1人やないやろ? 助けてって言って、ちゃんと助けてくれる人とおったらいい …好きになってくれて、好きになれる人とおっていい 先輩のことを責めたり傷付けたりせんで、大事にしてくれる人とおって欲しい… 先輩の心に置くのは…、そういう人やものを選んでや…」 それはどこか懇願のようでもあった。 眼鏡を押し上げるように涙を拭われながら、ヴェネッタは目を細めた。 「それは……イヴィト殿のこと…?」 「んー…それは……先輩が決めることやけど」 イヴィトはちょっと困ったように微笑むと、そっと身体を離そうとした。 ヴェネッタは彼の服を掴んで顔を近付け、じっとその瞳を見つめた。 「…イヴィト殿がいい……」 自分が何かを選んだことなんて、そもそもそんな権利があるとは思っていなかった。 だけど。 「もしも…い…一緒に……いて……貰えるとしたら…… イヴィト殿がいいよ……」 泣きじゃくって疲れた脳が、勝手に気持ちを吐露していった。 これがいいだなんて思うことすら許されないと思っていた。 だけど、自分で決めても良いのだとしたら。 イヴィトは眉根を寄せながら、ヴェネッタの身体を再び強く抱き締めてくれた。 「……っ、俺…でいいん……?」 「…だ、って…今イヴィト殿が言ったこと… 全部、当てはまっておるではないですか…」 ぎゅうう、と強く抱き締められながらヴェネッタはまた泣きながら微笑んでいた。 こんなに喜びに溢れていたら何も要らないかもしれない。 多くを望まないとか、贅沢は別世界だとか、そういう事じゃなくて。 すごく満たされたような気持ちだった。

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