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あなたのもの 8

だけど段々冷静な思考が戻ってくると、めちゃくちゃしてしまったような気がして まずい、と思い返す。 「…先輩?ごめんな?大丈夫やった?」 ヴェネッタはこくこくと頷くけど、抱き付かれたままで全然離してくれないので 仕方なく彼を持ち上げるようにして一緒に身体を起こした。 膝の上に座らせるようにして、宥めるように背中を撫でる。 「…嫌…やった?」 「…ち…違う…」 耳元で聞こえる声は濡れていて、泣いているようだった。 「こ…怖くて…、どうしたらいいのか…わからない… こんなに…、うれしくて…贅沢だった事…ない……から…」 イヴィトは思わず目を細めてしまう。 一体この人はどれだけ、我慢していたのだろうと。 「い…イヴィト殿も…い…いなくなったら……嫌だ……」 一体、どれだけ。 昼間に聞いた気持ちも、以前にヴェネッタが放っていた言葉も、 一方的に傷付けられて奪われてきた結果のようなものなのに それでも尚、1人で立ち続けようと、そして自分を傷付けて奪っていく誰かにも世界にも、まだ温情を掛けようとしているようで。 どうしてそんなに優しくあれるのか分からないし、もっと怒ってもいいとイヴィトは思ってしまうけど そんな美しい心にあり得ないほど惹かれてしまうのだ。 「俺はいなくならへんよ。 …寧ろヴェネッタ先輩がいらんーってなってもこうやって捕まえてまうかも」 彼の腰を抱き寄せながら小さく笑った。 だけどそれは結構本気でもあるのだった。 ヴェネッタはようやく顔を上げて、青い瞳から涙を溢しながら見つめてくる。 「ほん…と…?」 「…うん。俺はヴェネッタ先輩に…嘘つかんようにせなあかん せやろ?」 濡れた頬を撫でながら聞くと、彼は頷いてくれた。 「受け取ってや…俺は、あなたを愛してる」 彼の唇に、ちゅ、と軽くキスを落とした。 こんなに、こんなに彼の事が好きだなんて自分でも驚いているくらいだった。 ただ見ているだけで良かったのに。少しでも近くにいられるだけで。少しでも笑いかけてもらえるだけで。 でも今は、もっと近付きたくなっている。もっともっと深く。 ヴェネッタは瞳から涙を溢しながらもふにゃりと微笑んだ。 「すき……」 どうやったら、この人はずっとこうやって笑っていてくれるのだろう。 そんな事を思いながら2人は再び口付け合うのだった。

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