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第4話
それからさらに時が経ち、十分な結果が集まった頃だった。
「アウダくん。今日の研究は――実践だよ」
「実践?それって……誰かに、かけるんですか?」
「誰か、と言っても……ここには、私たちしかいないだろう」
その言葉に、アウダの表情が、ほんの一瞬だけ歪んだ。
それを見て、ノルムはすぐに首を振る。
「違う違う。君は、私の様子を観測するだけでいい」
「……観測するだけ?」
「アシスタントに、実験台なんてさせるわけがないだろう」
そう言ってから、ノルムは言葉を探すように、わずかに間を置いた。
「……私の研究はね。いつだって、自分で試してきたんだ」
声は、淡々としていた。
「そうしないと……私は……忘れてはいけないから……」
ふう、と小さく息を吐き、ノルムは袖をまくる。
その腕に刻まれたものを見た瞬間、アウダの目が、かつてないほど大きく見開かれた。
「……そ、それは……」
「あぁ……袖をまくったのは、初めてだったか」
ノルムは、どこか照れたように、けれど軽く笑った。
「……はは。こんなの、何の自慢にもならないけどね」
露わになった腕には、何度も触れられたように形を変えた傷痕が、幾つも残っている。
「私の研究の“証”とでも言えるのかな。ずっと、こうやって研究してきた」
声色は変わらない。
「特に最近は、魔法の効きが悪くてさ。実験の前に、少し強めの弛緩薬を使わないといけない」
一瞬だけ、言葉を選ぶ。
「……そうすると、目が覚める頃にはだいたい無意識で弄ってしまうらしいんだ」
まるで、他人の癖を語るように。
「意識が曖昧になると、“ここに何かあった”っていう感覚だけが残るからね」
ノルムは、肩をすくめる。
「だから、消えない。正確には……消えないように、なってしまう」
そう言って、ノルムはシリンジを取り出した。
「少し、待っててくれ」
その横で、アウダは言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
いつもの軽口も、冗談もない。
ノルムはそれに気づかないまま、慣れた手つきで準備を進める。
「……アウダくん?」
呼びかけられて、アウダははっとしたように顔を上げた。
その目は、先ほどまでとは別人のように静かだった。
「記録の準備は、いいかい」
一拍。
「……はい。できています」
「わかった。それじゃあ……」
そう言って、ノルムは薬液を注入し、自らに術式を施した。
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