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明日から、本格的な工事が始まる。
昼間、人間たちがばたばたと準備をして、
僕らの上に大きな透明のビニールをかけていった。
外の景色は薄く滲んで、空と校舎の境目さえ曖昧になる。
金属を打つ音、資材を運ぶ足音、新しい梯子が壁に立てかけられるきしむ音。
全部が、明日なにかが変わることを告げていた。
それでも僕らは、まだ時計として動いていた。歯車は噛み合い、針は巡り、いつも通り、1時間に一度重なっていく。
夕方になると、世界は一段と静かになった。ビニール越しの外は遠く、ぼやけて、なのに短針だけは、いつもより近く感じた。
重なる10分前。
声が届いた瞬間、短針が低く呟いた。
「……外が、いつもより静かだな」
「うん。なんか……僕らだけの世界みたい」
言ったあと、胸がとくんと跳ねる。こんな正直な言い方、したことなかった。
短針は少し黙ったあと、ふっと笑ったような声音で返した。
「へぇ……お前の口から、そういうの初めて聞いた」
「だって……だってさ……」
言葉がのどの奥で震える。でも、このまま黙っていたら後悔する気がした。
「明日、止まったら……もう、短針に触れないかもしれないんだろ?」
「……ああ」
「だから……今だけでも……ずっと、こうしていたい」
それは飾り気のない、まっすぐな気持ちだった。
短針はしばらく黙った。何度か言葉を飲み込んだ気配があって、そして重なる角度の限界まで僕に寄り添いながら言った。
「……長針。今のその一言だけで、もう十分だ。それだけで満たされる」
「……え?」
「お前が、俺といたいって言ってくれたことが……嬉しい」
短針の声は、僕の鼓動と同じ速さで震えていた。
「なぁ、長針」
「……なに?」
「明日が怖いのは……俺も同じだ」
本音を隠さずに言った短針の声は、どこまでも優しくて、どこか切なかった。
重なる直前、短針は僕をそっと抱き寄せた。額に、頬に、いつもより長く、深くキスを落とす。
「……明日どうなるか、わからないけど」
「……うん」
「最後の瞬間まで……お前を抱いてるよ」
その言葉は、止まる未来に震える僕の心を、そっと包んでくれた。
そして、僕らは重なりへ向かっていく。
明日がどんな日でも、今だけは、確かに触れられる時間だった。
「……また、すぐ離れるな」
短針が、冗談みたいに言う。
「うん。……でも、また来るよ」
「ああ。わかってる」
それでも短針の腕は、少しだけ強くなる。離れる前の癖みたいに。
「……離れてる間も、俺のこと考えろよ」
「……言わなくても、ずっとだって……」
ほんの少しだけ、拗ねたみたいな言い方になったのが自分でもわかって、僕は視線を逸らした。短針が小さく笑う。
「はは……そっか」
その声音が、少し照れているみたいで、それだけで胸の奥が、またきゅっとなる。
重なる時間だけじゃない。そのあとまた離れてしまう時間まで含めて、僕は初めて、残りの時間を惜しいと思った。
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