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真昼の光がビニール越しにぼやけて、時計台の内部はいつもより白く霞んで見えた。 朝からの工事音はまだ続いているのに、正午が近いせいか、外の気配は妙に静かだった。 ビニールで覆われた外の気配は重く鈍く、 それでも工事の人たちの声だけはくぐもって聞こえてくる。 「ここから上、点検入るぞー!」 「歯車、先に止める準備だ!」 その声が近づくたび、僕の胸に不安が広がっていく。 短針がそっと僕に寄り添った。 「……聞こえるか?歯車止める作業、もうすぐだ」 「止めるって……」 声が震えた。止まるという言葉だけで、身体の芯が冷える。 「俺たち、回れなくなるってことだ。動力が落ちて……全部、静かになる」 短針は落ち着いた声で説明した。でも、それが逆に怖かった。 止まる。 動かなくなる。 離れたまま……もう二度と触れ合えなくなる。 歯車が止まる前の、巨大な軋み音が響いた。やがて、工事の人たちの最後の掛け声が響いた。 「よし! 止めるぞ!」 工事の人間の声が、時計台の内部に反響した次の瞬間、 ガガガッ……ッ!! 体の奥が強く引っ張られた。短針は逆方向へ、まるで裂かれるように遠ざかっていく。 「や……やだ……! 短針!!」 世界がぐるぐる回り、目に映る短針が、遠ざかっていく。 短針は、僕に手を伸ばすように針を向けていた。でも届かない。届くはずがない。 止まるときに初期位置へ戻ろうとする動きだと、以前短針が話してくれたことを、ふと思い出す。 でも、その初期位置がどんなことになるのかは知らなかった。 そして、針は6時で止まった。 僕と短針は、文字盤の対角線。 世界で一番遠い位置。 指先すら触れられない。もう、視線でさえ追えない距離。 「短針……っ! やだ……やだよ……!」 ここで止まったら、二度と会えない。声も触れ合いも、全部そこで終わりになる。 触れられない。声も届かない。見ることさえできない。 歯車が最後の抵抗をするように、ギ……ギ……ギ、と軋んでいる。 もう終わった……そう、思われた瞬間。 ガタンッ!!! 古い歯車が、もう一度だけ意地を張るように動き出した。僕らの意思とは無関係に、針が強制的に大きく回される。 「え……っ……!」 世界が、三度目の回転を描く。 ぐるぐる___ ぐるぐる___ ぐるぐる___ 引き寄せられるように、吸い込まれるように。僕と短針の距離が、再び縮まっていく。 そして。___僕たち針は止まった。 止まった先は、0時0分。 始まりの場所。 僕と短針は、完全に重なっていた。 「……短針……っ……いる……?」 不安で滲んだ声に、短針の声がすぐ、重なるように返ってきた。 「いる。ちゃんと、お前に触れてる」 短針の手が、僕の背中をゆっくり抱き寄せた。止まったはずなのに、ぎゅっと、温度があった。 「……動ける……」 「ああ、よかったな。止まったのは仕事だけだ。抱きしめるのに歯車なんかいらない」 その声はいつもより少し震えていた。 「短針……っ……怖かった…!6時で止まったら…ずっと離れたままかと思って……!」 「ばか。泣くなよ」 短針は僕の腰を抱き寄せ、止まった世界で、そっと僕を包み込む。 「動けるし、喋れるし……キスだってできる」 囁きと同時に、短針は僕の額にキスを落とした。 「こんなふうに……お前と重なって止まるなんて、奇跡だろ。ああ、もう誰にも邪魔されない」 「え……」 短針はくすっと笑った。 「動かなくていいんだぞ?俺らの仕事は一回休みだ。だったら……この止まった時間、全部俺のものだろ?」 「……そっ、そんな……」 恥ずかしいのに、嬉しさで胸がいっぱいになる。 「長針」 「なに……?」 「止まってくれてよかった。こうして、お前とずっと触れ合っていられる」 「……ずっと……?」 「修理が終わるまで……いや、終わっても……離す気はねぇよ」 僕は短針の胸に顔を寄せた。針が重なる位置で、止まった世界の中だ。 「……短針。止まっても……こうしてそばにいられるなら……怖くない」 「そうだろ?」 短針は僕の指を絡め、そっと囁いた。 「長針。動けなくても……お前は俺の隣にいる。離れねぇよ。止まったとしても、俺らの時間は終わらねぇ」 止まった世界の0時0分で、僕らだけの時間が、静かに、あたたかく続いていく。

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