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0時0分で完全に止まった時計台は、すべての音を吸い込むように静かだった。 外を覆うビニールがかすかに揺れるたび、薄い光がにじむ。けれどその向こうはもう見えない。世界が遠ざかったかわりに、短針との距離は、今までで一番近い。 僕と短針は重なったまま、動かない。 けれど、触れ合っている温度だけは、決して止まらなかった。 「ねぇ……止まってる、よね?」 かすれた僕の声に、重なった位置から短針が低く、くすっと笑う。その瞬間、抱き寄せる腕にそっと力がこもった。 「何度も聞くなよ。ああ、完璧に止まってる。そんなに不安だったのか?」 「ふ、不安とかじゃ……!」 「震えてたろ。夢みたいだって思ってんだろ?」 「震えてない!」 「はいはい、強がるな」 その軽い茶化し方に、胸がじわっとあったかくなる。 「……ねぇ、短針」 「ん?」 「どれくらい……このまま止まってるのかな」 短針は一拍間を置いた。 「さあな。修理が長引けば一年くらい……かもな」 「い……一年……?」 「長いか短いかは……どうだろうな」 短針の声は落ち着いてるのに、どこか楽しげだった。 「一年も……ずっと抱きしめられてるの?」 「ずっと、だな」 「そんな……どうしたら……」 「どうもしなくていい。嫌になっても動けねぇぞ?」 「そ、そんなこと言う……!」 短針は僕を包む腕に、ゆっくりと力をこめた。 「離す気ねぇからな。一年だろうと……もっとだろうと」 「……っ」 胸が跳ねて、どうしようもなく熱くなる。 「……嫌にならないよ」 「ん?」 「ずっと……短針とこうしてたかった」 少しの沈黙。でも、それは不安じゃなくて、短針の嬉しさがこちらに伝わってくる沈黙だった。 「……言ったな、長針」 「い、今のは……!」 「取り消しても無駄。もう動けねぇんだから、逃げ場ないぞ?」 「……短針の意地悪」 「はいはい。可愛い可愛い」 ふたりで小さく笑い合う。止まった世界の真ん中で、僕らだけが息をしてるみたいだった。 ◇ ビニール越しの外が少し明るくなり、昼の色がぼんやり滲み始める。 重なったままの僕に、短針が囁くように声を落とした。 「……なぁ、長針」 「なに?」 「お前、寝てたろ。さっき」 「ね、寝てない!」 「寝息、聞こえてた。かわいかった」 「ち、違う! ちょっと目閉じただけ!」 「じゃあ、起きたついでに……」 短針は重なった僕の顔に、そっと触れた。 頬、額、こめかみ……ひとつひとつ確かめるように。 「こうして触れられるの、嬉しい。お前の寝息だって…初めて知れて嬉しかった」 「……短針……」 気づけば、短針が唇を寄せていた。触れるだけのキス。角度を変えたキス。ゆっくり、溶けるみたいに落とされるキス。 止まった世界で、時間はもう追いかけてこない。 「……ずっとこうしてたい」 僕が言うと、 「そうしろよ。止まってる間くらい、全部俺に甘えろ」 短針は僕の指を絡め、ぴたりと重なったまま囁いた。 「一年でも、十年でも。動けなくても……お前が隣にいりゃ、それでいい」 「……うん。短針がいるなら……どれだけ止まってもいい」 「言ったな? 後悔すんなよ?」 「しないよ。絶対しない」 短針が小さく笑い、重なった僕たちはそのままくすぐったいほど近い距離で抱き合った。 止まった世界の0時0分で、僕らだけの甘い時間が、ゆっくり、温かく続いていった。

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