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第6話

 映画のクランクインは、僕がSNSのニュースで知った日のちょうど一週間後だった。それは僕が一磨に、一磨がゲイ役で主演する映画について問いかけた時の、一磨からの返信で知った。僕はあの後すぐ一磨にラインで問いかけたから。 『どうして教えてくれなかったの?』  一磨は僕の問いかけにすぐに返信を寄越した。 『あの日は、自分がゲイ役のオーディションを受けるって、その場で初めて知って驚いたんだ。でも、全く興味もやる気もなかったから、適当にオーディションを受けたのに合格しちゃったんだよ。事務所は、俺がゲイ役を積極的にやれば、本人がゲイだとは誰も思わないって考えたみたいだね』と。  案の定、想像していた通りの事務所の浅はかな考えに、僕は憤りを覚えた。 『一磨はそれでいいの? もし、相手役とのラブシーンとかで、うっかり自分のセクシャリティがバレたりしたらどうするの?』  僕はそう問いかけた。問いかけたあと無性に恥ずかしくなったことは言うまでもない。 『それってどういう意味? 湊は、俺が相手役の国仲智希(くになかともき)に欲情しちゃうかもしれないって思ってんの?』 『ち、違う! そんなこと思ってないけど……ただ、僕は』  言葉に詰まる自分が嫌になる。  あの時、一磨をオーディションに行かせたことをひどく後悔していることも、リアルなゲイの一磨がゲイ役をやるという危険性も、そして何より、その国仲智希とのラブストーリーなど死ぬほど嫌だということも、僕は一磨に上手く伝えられない。 『俺は湊以外の男にそんな気持ちにはならないよ。絶対。それに、前にも言ったよね? 俺は別に自分がゲイだってバレても平気だって。俺が一番嫌なのは湊を失うことだって。だから、それ以外のことは何も怖くない』  ああ、またそんなド直球なことを……。  一磨はどうして、こんな風に僕に素直に自分の思いをぶつけられるのだろう。僕は、国仲智希に激しく嫉妬しているということすら言えずにいるのに。 『とにかく湊は何も心配するな。こんな映画さっさと終わらせたら俺は事務所に長期休暇をもらう。湊! その時こそ、この間の続きだからな……』  一磨のそのラインで会話は終了となったけど、長期休暇なんて無理だろうなと僕はネガティブに考える。撮影後はまた宣伝で引っ張りだこになるだろうし。  大学の門をくぐり、アルバイト先の居酒屋に向かい歩きながら、僕はこの間の一磨とのラインを思い出す。  やっと心が通じ合い恋人同士になれたのに、僕たちは会うことすらままならない。人気俳優と恋愛することがこんなにも簡単じゃないということに、僕は思わず挫けそうになる。  一磨……本当に休みなんか取れるの?  その日はいつ来るのだろう。その日を待ち侘びてやっと目の前まで来たのに、またこの間みたいに泡のように弾け消えてしまったら。  僕はそんな妄想を頭の中でしてしまい慌ててかき消した。  ダメだよ。僕がこんなんじゃ一磨が悲しむ……。  僕は、僕たちの未来に希望を持とうと自分を強く励ました。

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