6 / 10
第6話
映画のクランクインは、僕がSNSのニュースで知った日のちょうど一週間後だった。それは僕が一磨に、一磨がゲイ役で主演する映画について問いかけた時の、一磨からの返信で知った。僕はあの後すぐ一磨にラインで問いかけたから。
『どうして教えてくれなかったの?』
一磨は僕の問いかけにすぐに返信を寄越した。
『あの日は、自分がゲイ役のオーディションを受けるって、その場で初めて知って驚いたんだ。でも、全く興味もやる気もなかったから、適当にオーディションを受けたのに合格しちゃったんだよ。事務所は、俺がゲイ役を積極的にやれば、本人がゲイだとは誰も思わないって考えたみたいだね』と。
案の定、想像していた通りの事務所の浅はかな考えに、僕は憤りを覚えた。
『一磨はそれでいいの? もし、相手役とのラブシーンとかで、うっかり自分のセクシャリティがバレたりしたらどうするの?』
僕はそう問いかけた。問いかけたあと無性に恥ずかしくなったことは言うまでもない。
『それってどういう意味? 湊は、俺が相手役の国仲智希(くになかともき)に欲情しちゃうかもしれないって思ってんの?』
『ち、違う! そんなこと思ってないけど……ただ、僕は』
言葉に詰まる自分が嫌になる。
あの時、一磨をオーディションに行かせたことをひどく後悔していることも、リアルなゲイの一磨がゲイ役をやるという危険性も、そして何より、その国仲智希とのラブストーリーなど死ぬほど嫌だということも、僕は一磨に上手く伝えられない。
『俺は湊以外の男にそんな気持ちにはならないよ。絶対。それに、前にも言ったよね? 俺は別に自分がゲイだってバレても平気だって。俺が一番嫌なのは湊を失うことだって。だから、それ以外のことは何も怖くない』
ああ、またそんなド直球なことを……。
一磨はどうして、こんな風に僕に素直に自分の思いをぶつけられるのだろう。僕は、国仲智希に激しく嫉妬しているということすら言えずにいるのに。
『とにかく湊は何も心配するな。こんな映画さっさと終わらせたら俺は事務所に長期休暇をもらう。湊! その時こそ、この間の続きだからな……』
一磨のそのラインで会話は終了となったけど、長期休暇なんて無理だろうなと僕はネガティブに考える。撮影後はまた宣伝で引っ張りだこになるだろうし。
大学の門をくぐり、アルバイト先の居酒屋に向かい歩きながら、僕はこの間の一磨とのラインを思い出す。
やっと心が通じ合い恋人同士になれたのに、僕たちは会うことすらままならない。人気俳優と恋愛することがこんなにも簡単じゃないということに、僕は思わず挫けそうになる。
一磨……本当に休みなんか取れるの?
その日はいつ来るのだろう。その日を待ち侘びてやっと目の前まで来たのに、またこの間みたいに泡のように弾け消えてしまったら。
僕はそんな妄想を頭の中でしてしまい慌ててかき消した。
ダメだよ。僕がこんなんじゃ一磨が悲しむ……。
僕は、僕たちの未来に希望を持とうと自分を強く励ました。
ともだちにシェアしよう!

