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第7話
一磨の映画の撮影が始まって一か月が過ぎた。僕はずっと大学でも自宅でも、修士論文の仕上げに集中していた。後は就職後に役立つような資格を取りたいとも思い、それの勉強も始めた。空いた時間はアルバイトを入れたりして、なるべく毎日忙しくすることで、一磨のことを少しでも考えないようにしようと心がけていた。
今回、一磨は同性愛者の役で、しかもラブロマンス映画の主演をやる。相手は一磨よりも芸歴の長い若手人気俳優で、正直僕なんか全く敵わないとても可愛いい男の子だ。そんな子を相手に一磨が演技することを想像すると、今まで味わったことのない嫌な感情が芽生えてくる。それを嫉妬という言葉で片づけてしまうのは簡単だが、僕はその嫉妬という感情に慣れていないから困る。今までは、僕は一磨をノンケだと思っていたから、一磨が女優と共演しようがラブシーンをしようが、嫉妬するレベルまでは僕の感情は引き上げられていなかった。でも、今回は違う。もちろん相手役の俳優もノンケに違いないが、一磨がゲイだと分かってしまってからは、一磨が男性と絡むことが辛くてたまらない。ましてや同性愛のラブストーリー映画でラブシーンが無いわけがない。絶対あるに決まっている。それはどれほど濃厚なのか、それともライトなものなのかの情報が全くないし、怖くて一磨に聞くこともできない。もしかしたら既にそのシーンの撮影は終わっているかもしれないし、まだの可能性もある。
僕は勉強をしながら悶々とそんなことを考えてしまい、全然集中できていない。
気分転換にテレビでも見ようとスイッチを入れ、チャンネルを選んでいた時だった。見慣れた顔に手が止まり、すかさず番組のタイトルに目をやった。
『北村一磨主演映画の舞台裏に密着!!』
そのタイトルに僕は釘付けになった。慌ててリモコンをベッドに放り投げると、前のめりの態勢でテレビを食い入るように見つめた。
撮影の合間に休憩をしている様子が映し出されている。国仲智希とデッキチェアを並べて座る一磨は、楽しそうに国仲とスキンシップを取りながら話している。テレビ局の可愛い女性アナウンサーが、撮影の雰囲気や二人の相性、映画の見所などをインタビューしていて、それに二人がテンション高めに答える姿は、ととても仲が良さそうに見える。
特に国仲は何度も一磨を横目でちらちらと伺っている気がする。目の前の超絶可愛い女性アナウンサーより、一磨の方が気になってしょうがないように見えるのは、僕の考え過ぎだろうか? 一磨の方もまんざらではなさそうに、上機嫌に国仲の肩を抱いたりしながら自分たちの相性の良さをアピールしている。
ああ、そうだ。これは番宣だ。例えそうじゃなくても、共演者が仲良く映画を作っていることを伝えなきゃダメに決まってるじゃないか!
僕はそのことに気づき、冷静な気持ちになろうと自分に言い聞かせるが、二人が並んでイチャイチャしている姿に、さすがにどうしようなく嫌な感情が芽生えてくる。
その時、画面が切り替わり、いきなり映画本編のシーンが差し込まれた。僕はその映像を見た瞬間、心臓をギュッと鷲掴みにされたようになる。
それは、自分が想像する以上に過激なラブシーンだった。一磨が国仲にキスをしながらベッドへ押し倒す。二人ベッドに寝ころびながら更に濃厚なキスを交わす。一磨の国仲を愛おしそうに見つめる瞳を見た時、僕は心の底からもの凄い嫉妬心を覚えた。こんな気持ちになったことが、今の今まで一度もなかったことに気づいた時、僕は自分の薄っぺらさを痛いくらい思い知らされる。
嫌だ! 一磨! 嫌だよ!
僕はベッドにうつ伏せで倒れこむと、枕に顔を埋めながら声にならない声で必死に叫んだ。
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