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第9話

「ふんっ、はあ、はあ、んんっ……」  部屋の中に入った瞬間、一磨は僕をドアに押し付けると、激しく舌を絡ませながら、少し乱暴にキスをした。ドアに磔にされた手首が痛いが、それを忘れさせる情熱的なキスに、僕の心と体は爆発しそうなほど興奮する。 「どうしたの? 湊……何かあったの?」  一磨は僕の唇から僅かに自分の唇を離した瞬間、途切れ途切れにそう問いかけた。気になって問いかけたいのに、キスもし続けたいというもどかしさに苦しむように。 「な、何も……んっ、ないよ、ただ、一磨に、ふっん、はあ、会いた、くっ、て」  僕は、激しく絡ませてくる一磨の舌を必死に避けながらそう言った。 「本当に?」  一磨は僕の瞳を探るように見つめると、僕の舌を思い切り吸い込んだ。 「んぐっ! ううっ」  僕は突然のことにパニックになると、一磨の肩を拳で強く叩きながら必死に苦しさをアピールした。   「う、ぐっ、ぐるしいっ、一磨!」  僕は一磨の胸を必死に前に押しやると、やっとのことで一磨のキスから逃げることに成功する。 「嘘つくな……湊、正直に言え」  一磨は僕の手首を掴み引っ張ると、スマホの明かりを頼りに、僕を暗闇の中寝室へと強引に連れて行く。  「う、嘘なんか、ついてない……」  僕は一磨に会いたいという気持ちは正直に伝えられても、本当はあの番組を見てしまい、激しく国仲智希に嫉妬をしたということが伝えられない。僕は自分のプライドにしがみ付く愚かな男でいたくないのに。恥ずかしさと情けなさで心ががんじがらめになってしまう。 「分かった。じゃあ、俺は今日湊を抱かない……どうだ? それでも言わないつもりか?」  一磨はそう言って僕を抱え上げると、僕を乱暴にベッドへ押し倒した。  僕はすかさず、自分の顔を両腕で交差させるようにして隠すと、イヤイヤをする子供のように頭を左右に振った。 「やだやだ、抱いてよ! 僕が一番好きだって、僕しか欲しくないって、そう言いながら僕を抱いてよ!」  一磨は顔を隠す僕の腕をどかそうとするから、僕はそれを全力で阻止する。 「やめてよ……顔見ないでっ」  僕がそう言って抵抗をすると、突然一磨は何かに閃いたような顔をした。 「……分かった!……湊、もしかしてあの番組見たの?」  僕は一磨の言葉に一瞬でフリーズした。もうそれはそれが答えだと言っているのも同然で、我ながらそんな自分がバカ過ぎて、頭がおかしくなりそうになる。  僕は両腕で顔を隠したまま、一磨に何も言い返せないでいる。 「湊……顔見せて……」  一磨はひどく湿度の高い艶っぽい声でそう言うと、僕の腕を強引にどかした。僕はもう諦めて、されるがまま一磨に腕をどかさせると、僕を真正面から見下ろす、一磨の熱い眼差しから慌てて目を反らす。 「見ないで。多分今、顔真っ赤だから……」  僕はやっぱりもの凄く恥ずかしくて、また自分の顔を隠そうとしたが、それをあっさり一磨に阻止される。 「嫉妬したんだね? 俺と国仲智希に……違う?」  一磨は強い興奮を秘めた瞳で、僕にそう問いかけた。 「……そ、そうだよ。嫉妬した……一磨があの人と仲良く話したり、映画だと分かっててもキスしたりするのが、もの凄く嫌だった!」  僕はもう自棄になりながらそう言った。こんな風に自分の感情を誰かに真っ直ぐにぶつけたのはこれが初めてかもしれない。だって僕は、今すぐ一磨に抱かれたいから。僕たちが深く愛し合っている証を今すぐ刻みたいから。 「僕は、一磨から国仲智希の記憶を消したいよ。僕のキスであの映画のキスを上書きしたい……一磨に抱かれるのは僕なんだから!」  僕は一磨にしがみつきながらそう叫んだ。  僕に抱きつかれた一磨は、肩を激しく上下させながら、低い呻き声を僕の首筋辺りで上げた。 「……解った。俺今死ぬほど嬉しいから、多分、朝まで湊を、抱き潰しちゃうと思う……」  一磨は、血走った危険な目で僕を食い入るように見つめながら、荒い息づかいでそう言った……。

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