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3  ――王様になりたかったんだ、と言ったら、笑われるだろうか。 (王様は) (誰よりも強い愛を抱く人……)  当時、ルーンハルトの理想の「王様」は、絵本の中に描かれていた。強く清く正しく、そして実はちょっぴり気弱な王様。彼のことを、国の民たちは誰よりも信頼し、温かな親愛の情を抱いてくれる。  王が迷う時、民たちは地上に光を灯す。  そして民が惑う時、王はその指で空を差し――そこに輝く白い星を、次の行き先と定めるのだ。  互いにしっかりと手を取り合う王と民は、いくつもの困難をいっしょに乗り越えて、おんなじ笑顔で宴をする。  いつか、そういう「王様」になりたかった。  ……それが叶わぬ夢と散ったのは、十の頃。  同じ頃に、ずっと大事にしていた恐竜図鑑も失われてしまった。  ルーンハルトが『恐竜たちと赤い星の庭』を創り出したのは、その二年後だ。  エーベルン王国東部の街・ドレスドの王立公園で行われた、ガーデニングコンテスト。  そこで優秀賞を得た庭園は、精霊の日が四巡りする間、エーベルン王城の庭にそっくりそのまま再現する栄誉を与えられた。  コンテストは三年に一度行われ、優秀賞には、国内外から広く大きな注目が寄せられる。その年は若干十二歳のルーンハルトが――さすがに応募の規定年齢には満たず、個人名を出さない団体として登録したのだが――優秀賞を得ることになったのだった。  当時のルーンハルトは、大伯父と彼の孫に当たる七つ歳上のはとことともに、王都にあるギルドに身を寄せていた。家族と言うにはずいぶんとちぐはぐな三人だったけれど、全員がすでに他に身寄りもない状態だ。  さらに言えば、定職も家もなかった。  あの頃、もしもギルドから日雇い仕事と寝る場所を提供されていなければ、確実にルーンハルトたちは路頭に迷っていただろう。  ギルドに隣接する宿舎は家無しの者を受け入れており、ゆるい共同生活を営むそこでは、おおむね快活で気の好い者ばかりが集っていた。夕食時の食堂で、ルーンハルトが「ガーデニングコンテストに挑戦したい」と打ち明けた時も、みんなが面白がって力を貸してくれたのだ。  コンテストの歴代受賞者には、貴族から出資を受けた高名ガーデナーや大規模な造園会社ばかりが並んでいる。それを無名の俺たちがひっくり返してやろうぜ、と大人たちは妙な連帯感さえ生み出し、準備期間はまるでお祭りのようだった。  けれどルーンハルトにとっては、これは弔いの庭だったのだ。  憧れてやまなかった「王様」はもう消えてしまった。  そして、幼い頃のように毎日持ち歩くことはしなくなっていたけれど、ずっと大切に、本棚に置いていた図鑑。そこには、ただ一度だけ会った「友達」――アイゼンへの気持ちが、すべて篭もっていたのに。  自分はあの図鑑さえ持ち出すことが出来ず、永遠に失われてしまった。 (もう、あの子は) (僕のことなんて、覚えていないよ)  嘆く気持ちを無理やり押し込めて、魔法陣を描く。いくつも組み合わせると、紋様はどんどん複雑になる。どれほど細かくともひとすじとして取り零さぬよう、繊細に――けれど大胆にたっぷりと魔力を込めて、発動させる。  それはまるで、自分のための星座を描くみたいだと思った。  星の名前は、誰も知らない。  ルーンハルト以外の誰かが見上げても、きっと、その人はその人の、まったく違う星座を見つけるだろう。 (だから、いいんだ)  お祭りみたいなコンテストでいい。  恐竜すごいね! と見上げて笑ってくれたらそれでいい。  この『庭』に葬られた、かつてのルーンハルトの夢に――誰も気付かなくて、いいんだ。 『俺は、王になります』  アイゼン。  アイゼン・オーヴェ・エーベルライト。――もう一度会いたいな、なんて、簡単には願えなくなってしまった、彼が。 『父様の後を継ぎ、この国の王に』  彼だけが、自分の描いた星座を見つけ出す。なにも叶わず潰えてしまったその小さな光を受け取って、未来へと繋ごうとする。  まるで、奇跡のように。

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